源氏物語 第36帖 柏木(29)
衛門督を偲ぶ人々
夕霧の直衣姿はたいそう鮮やかで、背丈も堂々として、すらりと高く見える。柏木は何事につけても親しみやすく優美で、上品で愛嬌のあることが比類なかった。夕霧は男らしく華やかで、ああ美しいと一目で見える。女房たちは、つややかな美しさは人に似ていないわねとささやき、同じことなら、このように出入りしてくださったらなどと言うようである。夕霧は、右将軍が塚に草初めて青し、と口ずさむが、それもたいそう近い時代のことである。さまざまに近くも遠くも心を乱すような世の中で、身分の高い者も低い者も、柏木を惜しみ残念がらない者はない。公務の面でのすぐれた点はもとより、不思議なほど情けを大事にする人だったので、それほど縁のない役人や、年老いた女房たちまでも、恋い悲しみ申し上げる。まして帝は、管弦の遊びのたびに、まず柏木を思い出して偲ぶ。ああ衛門督が、という口癖を、何事につけても言わない人はない。六条院(源氏)は、まして哀れに思い出すことが月日とともに多い。この若君を、心の内では柏木の形見と見ているが、人の思いも寄らないことなので、たいそうかいがない。秋のころになると、この若君は這い這いやいざりなどをする。

- 1直直のう衣衣し姿姿すがたいといといとあざやかあざやかあざやかにてにてにてたけたけたけだちだちだちものものしうものものしうものものしゅうそゞろかそゞろかそぞろかにににぞぞぞ見見みえええ給給たまひひいけるけるける。。。かのかのかのおとゞおとゞおとどははは萬萬よろずののの事事ことなつかしうなつかしうなつかしゅうなまめきなまめきなまめき、、、あてあてあてににに愛愛あい敬敬ぎょうづきづきずき給給たまへへえるるることことことのののならびならびならびなきなきなきなりなりなり。。。これこれこれはははをゝしうをゝしうおおしゅう華華はなやかやかやかにににあなあなあなきよらきよらきよらとととふとふとふと見見みえええたまふたまふたまう。。。「「「にほひにほひにおいぞぞぞ人人ひとににに似似にぬぬぬややや」」」とととうちうちうちさゝめきさゝめきささめきててて、、、「「「同同おなじうじうじゅうはははかやうかやうかようにてにてにてももも出出いででで入入いりりり給給たまははわましかましかましかばばば」」」などなどなど人々人々ひとびといふいふいうめりめりめり。。。「「「いうしやうぐんいうしやうぐんいうしょうぐんがががつかつかつかににに草草くさはじめはじめはじめてててあをしあをしあおし」」」とととうちうちうち口口くちずさひずさひずさいててて、、、それそれそれもももいといといと近近ちかききき世世よのののことことことなれなれなれどどどさまざまさまざまさまざま近近ちこううう遠遠とおううう心心こころみだるみだるみだるやうやうようなりなりなりししし世世よののの中中なかににに高高たかきききももも降降くだれれれるるるもももをしみをしみおしみあたらしがらあたらしがらあたらしがらぬぬぬはははなきなきなきもももうべうべしきうべうべしきうびょうべしき方方かたをををばばばさるさるさるものものものにてにてにて怪怪あやしうしうしゅう情情なさけをををたてたてたてたるたるたる人人ひとにににぞぞぞ物物ものししし給給たまひひいけれけれければばば、、、さしもさしもさしもあるあるあるまじきまじきまじきおほやけおほやけおおやけ人人ひと女房女房にょうぼうなどなどなどののの年年としふるめきふるめきふるめきたるたるたるどもどもどもさへさへさへ戀戀こひひいかなしびかなしびかなしび聞聞きこゆるゆるゆる。。。ましてましてましてうへうへうえにににははは御御おん遊遊あそびなどなどなどののの折折おりごとごとごとにににまづまづまずおぼしおぼしおぼし出出いでででゝゝてなむなむなんしのばしのばしのばせせせ給給たまひひいけるけるける。。。あはれあはれあわれ衛衛え門門もん督督かみのののととといふいふいうことことことくさくさくさ、、、何何なに事事ごとにににつけつけつけてててもももいはいはいわぬぬぬ人人ひとなしなしなし。。。六六ろく條條じょう院院いんにににはははましてましてまして哀哀あわれとととおぼしおぼしおぼし出出いづるづるずることことこと月月つき日日ひにににそへそへそえててておほかりおほかりおおかり。。。このこのこの若若わか君君ぎみををを御心御心みこころひとつひとつひとつにににはははかたみかたみかたみととと見見みなしなしなし給給たまへへえどどど、、、人人ひとののの思思おもひひいよらよらよらぬぬぬことことことなれなれなればばばいといといとかひかひかいなしなしなし。。。秋秋あきつかたつかたつかたににになれなれなればばばこのこのこの君君きみははははひはひはいゐざりゐざりいざりなどなどなど。。。
現代語訳
夕霧の直衣姿はたいそう鮮やかで、背丈も堂々として、すらりと高くお見えになった。あの大納言(柏木)は、何事につけても親しみやすく優美で、上品で愛嬌がおありになることが比類なかった。この君(夕霧)は、男らしく華やかで、ああ美しいと、ふと一目でお見えになる。女房たちは「つややかな美しさは、人に似ていないわね」とささやいて、「同じことなら、このようにしてでも、出入りしてくださったら」などと言うようである。夕霧は「右将軍が塚に草初めて青し」と口ずさんで、それもたいそう近い時代のことであるが、さまざまに、近くも遠くも心を乱すようであった世の中で、身分の高い者も低い者も、柏木を惜しみ残念がらない者はないのも、公務の面でのしっかりしたことはもちろんのこととして、不思議なほど人情を大切にする人でいらっしゃったので、それほど縁のありそうもない役人や、女房などの年老いた者たちまでも、恋い悲しみ申し上げる。まして帝は、管弦のお遊びなどの折ごとに、まずお思い出しになってお偲びになった。「ああ、衛門督が」という口癖を、何事につけても言わない人はない。六条院(源氏)は、まして哀れとお思い出しになることが、月日とともに多い。この若君を、お心の内ひとつでは柏木の形見と見なしていらっしゃるけれど、人の思いも寄らないことなので、たいそうかいがない。秋のころになると、この君は這い這いやいざりなどを……。
意訳
世の人々も帝も柏木を偲び、源氏も、若君を柏木の形見として心ひそかに見る。秋になり、若君は這い這いを始める。
語釈・文法注
文法
- 「いうしやうぐんがつかに草はじめてあをし」(いうしやうぐんがつかに草はじめてあをし)
- 「右将軍が塚に草初めて青し」。紀在昌の詩句で、若くして亡くなった右近衛大将藤原保忠を悼んだものとされる。
- 「うべうべし」(うべうべしき方をばさるものにて)
- もっともらしい、しっかりしている。公務や学問の面ですぐれていること。
- 「ことくさ」(あはれ衛門督のといふことくさ)
- 言種。口癖、よく口にする言葉。
解説
柏木の巻は、世の人々が柏木を偲ぶ場面で結ばれる。柏木は、公の才能だけでなく、人情を大切にする人であったので、身分の上下を問わず人々に惜しまれた。「あはれ衛門督の」という口癖が広まったという描写は、柏木の人柄と、その死の大きさを伝えている。
源氏は、若君を柏木の形見と見るが、それは誰にも言えない秘密である。巻末の「はひゐざりなど」という言葉は、次の横笛の巻へと物語をつなぐ。若君(薫)はやがて成長し、宇治十帖の主人公として、出生の秘密に苦しむことになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、742–744頁(コマ82–83)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日