源氏物語 第36帖 柏木(28)
御息所との対面
御息所が少し膝を進めて出てくる気配がするので、夕霧はそっと居住まいを正す。御息所は、つらい世の中を思い沈む月日が積もったせいか、気分も不思議とぼんやりして過ごしているが、このようにたびたびの見舞いがたいそう恐れ多いので、気を取り直してと言い、本当に具合が悪そうな様子である。夕霧は、嘆くのは世の道理だが、そうばかりでもどうか、万事そうなるべき定めなのだろう、やはり限りのある世なのだからと慰める。夕霧は、この宮は聞いていたよりも奥ゆかしい人柄が見える、ああ、どれほど人笑いになることまで加えて嘆いているだろうと思うと、ただならぬ気持ちになり、たいそう心を込めて宮の様子を尋ねる。容貌はそれほど申し分なくはないだろうが、ひどく見苦しく気の毒なほどでなければ、どうして見た目で人を嫌ったり、また、あってはならない相手に心を迷わせたりすべきだろう、それは見苦しいことだ、ただ気立てこそ、結局は大切なのだと思う。夕霧は、今はやはり柏木と同じように思って、疎遠にせず親しくしてほしいなどと、わざとらしい懸想めいた様子ではないが、心を込めて意中をほのめかす。

- 1御御み息息やす所所どころ少少すこしししゐざりゐざりいざり出出いででで給給たまふふうけはひけはひけわいすれすれすればばばやをらやをらやおらゐゐいなほりなほりなおり給給たまひひいぬぬぬ。。。「「「うきうきうき世世よののの中中なかををを思思おもひひい給給たまへへえしづむしづむしずむ月月つき日日ひのののつもるつもるつもるけぢめけぢめけじめにににややや、、、みだりみだりみだり心心こころちちちもももあやしうあやしうあやしゅうほれぼれしうほれぼれしうほれぼれしゅうてててすぐしすぐしすぐし侍侍はべるるるををを、、、かくかくかく度度たび々々たびかさねかさねかさねさせさせさせ給給たまふふう御御おんとぶらひとぶらひとぶらいのののいといといとかたじけなきかたじけなきかたじけなきににに、、、思思おもひひい給給たまへへえおこしおこしおこしてててなむなむなん」」」とてとてとて、、、げにげにげに惱惱なやましげましげましげなるなるなる御御おんけはひけはひけわいなりなりなり。。。「「「思思おもほしほしおしなげくなげくなげくははは世世よのののことわりことわりことわりなれなれなれどどど、、、又又またいといといとさささのみのみのみはははいかゞいかゞいかが。。。萬萬よろずののの事事ことさるさるさるべきべきべきにににこそこそこそははは侍侍はべるるるめれめれめれ。。。さすがさすがさすがにににかぎりかぎりかぎりあるあるある世世よににになむなむなん」」」とととなぐさめなぐさめなぐさめ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。このこのこの宮宮みやこそこそこそきゝきゝききしししよりよりよりははは心心こころのののおくおくおく見見みえええ給給たまへへえ、、、哀哀あわれげにげにげにいかにいかにいかに人人ひとわらはれわらはれわらわれなるなるなることことことをををとりとりとりそへそへそえててておぼすおぼすおぼすらむらむらんととと思思おもふふうもももたゞたゞただならならならねねねばばば、、、いたういたういとう心心こころとゞめとゞめとどめててて御御おん有有あり樣樣さまももも問問とひひい聞聞きこえええ給給たまひひいけりけりけり。。。かたちかたちかたちぞぞぞいといといとまほまほまほにににはははえええ物物ものししし給給たまふふうまじけれまじけれまじけれどどど、、、いといといと見見み苦苦ぐるしうしうしゅうかたはらかたはらかたわらいたきいたきいたき程程ほどにににだにだにだにあらあらあらずずずははは、、、などなどなどててて見見みるるるめめめににによりよりより人人ひとをををもももおもひおもひおもいあきあきあき又又またさるさるさるまじきまじきまじきににに心心こころをををももも惑惑まどははわすすすべきべきべきぞぞぞ、、、さまさまさまあしあしあしややや、、、唯唯ただ心心こころばせばせばせのみのみのみこそこそこそいひいひいいもてもてもてゆかゆかゆかむむんにににはははやんごとなかるやんごとなかるやんごとなかるべけれべけれべけれとととおぼすおぼすおぼす。。。「「「今今いまははは猶猶なお昔昔むかしにににおもほしおもほしおもおしなずらへなずらへなずらえててて疎疎うとからからからずずずもてもてもてなさなさなさせせせ給給たまへへえ」」」などなどなど、、、わざとわざとわざとけさうけさうけそうびびびてててはははあらあらあらねねねどどどねんごろねんごろねんごろににに氣色氣色けしきばみばみばみててて聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
現代語訳
御息所が少し膝を進めて出ていらっしゃる気配がするので、夕霧はそっと居住まいを正しなさった。御息所は、「つらい世の中を思い沈んでおります月日が積もったためでしょうか、乱れた気分も不思議とぼんやりして過ごしておりますが、このようにたびたび重ねてくださるお見舞いが、たいそう恐れ多いので、気を取り直しまして」と言って、本当に具合が悪そうなご様子である。夕霧は、「お嘆きになるのは世の道理ですが、また、たいそうそのようにばかりでもいかがでしょう。万事、そうなるべき定めでございましょう。やはり限りのある世の中ですから」とお慰め申し上げなさる。この宮こそ、聞いていたよりは心の奥ゆかしさがお見えになる、ああ、本当に、どれほど人に笑われるようなことまで加えて嘆いていらっしゃるだろうと思うのも、ただならぬ気持ちなので、たいそう心をとめて、宮のご様子もお尋ね申し上げなさった。ご容貌は、たいそう申し分なくはいらっしゃらないだろうが、ひどく見苦しく気の毒なほどでさえなければ、どうして見た目によって人を嫌いになったり、また、あってはならない相手に心を迷わせたりすべきだろうか、見苦しいことだ、ただ気立てこそ、結局のところ大切なものだろう、とお思いになる。「今はやはり、昔(柏木の生前)と同じようにお思いになって、疎遠にせずお付き合いください」などと、わざとらしく懸想めいた様子ではないが、心を込めて意中をほのめかして申し上げなさる。
意訳
御息所は具合が悪いながらも夕霧と対面し、夕霧は慰める。夕霧は宮の人柄に心を引かれ、親しくしてほしいとほのめかす。
語釈・文法注
文法
- 「ほれぼれし」(あやしうほれぼれしうてすぐし侍るを)
- ぼんやりしている、放心している。
- 「見るめ」(などて見るめにより人をもおもひあき)
- 見た目、容貌。
- 「けさうぶ」(わざとけさうびてはあらねど)
- 懸想めく。恋心を抱いているような様子をする。
解説
夕霧は、落葉の宮が聞いていたよりも奥ゆかしい人だと感じる。柏木は、女三の宮への思いのために、落葉の宮をそれほど愛さなかった。夕霧は、容貌よりも気立てこそ大切だと考え、柏木が見過ごした宮の美点に心を引かれていく。
「あってはならない相手に心を迷わせる」という夕霧の思いは、柏木の女三の宮への恋を念頭に置いたものである。皮肉にも、夕霧自身が、親友の未亡人という、慎むべき相手に心を寄せ始めている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、742–743頁(コマ82)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日