源氏物語 第32帖 梅枝(11)
夕霧と雲居雁の贈答
雲居雁は、父の内大臣がいつにも増して嘆いている様子に、わが身を恥ずかしく思いながらも、表面は平静を装って物思いにふけっている。夕霧からの手紙は、思いあまった折々に、しみじみと心深く届く。夕霧が中務宮の姫君と縁組するらしいという噂を聞いた内大臣は、胸がふさがる思いで、源氏が口添えした時に断ったからだと雲居雁に言い、涙ぐむ。雲居雁は恥ずかしさに涙をこぼして背を向ける。そこへ夕霧から手紙が届き、つれなさは世の常となったが、忘れられない私は人と違うのだろうかと詠む。雲居雁は、噂をほのめかしもしないつれなさを恨みながら、限りと言って忘れがたい人を忘れるのも、世に従う心なのだろうと返し、夕霧はいぶかしく思って、何度も見返す。

- 1女女おんなももも常常つねよりよりより殊殊ことにににおとゞおとゞおとどののの思思おもひひい歎歎なげききき給給たまへへえるるる御御おん氣色氣色けしきにににはづかしうはづかしうはずかしゅううきうきうき身身みとととおぼしおぼしおぼししづめしづめしずめどどど、、、うへうへうえはははつれなくつれなくつれなくおほどかおほどかおおどかにてにてにてながめながめながめすぐしすぐしすぐし給給たまふふう。。。御御おん文文ふみははは思思おもひひいあまりあまりあまり給給たまふふう折々折々おりおり哀哀あわれににに心心こころ深深ふかきききさまさまさまににに聞聞きこえええ給給たまふふう。。。誰誰たがががまことまことまことをををかかかととと思思おもひひいながらながらながら世世よなれなれなれたるたるたる人人ひとこそこそこそあながちにあながちにあながちに人人ひとののの心心こころをををももも疑疑うたがふふうなれなれなれ。。。哀哀あわれととと見見み給給たまふふうふしふしふし多多おおかりかりかり。。。
- 2「「「中中なか務務つかさののの宮宮みやなむなむなん大殿大殿おおとのにににももも御御おんけしきけしきけしき給給たまはりはりわりてててさささもももやややとととおぼしおぼしおぼしかはしかはしかわしたたたなるなるなる」」」ととと人人ひとののの聞聞きこえええけれけれければばば、、、おとゞおとゞおとどはははひきひきひき返返かえししし御御おん胸胸むねふたがるふたがるふたがるべしべしべし。。。「「「忍忍しのびびびてててさるさるさることことことをををこそこそこそ聞聞ききききしかしかしか。。。なさけなきなさけなきなさけなき人人ひとののの御心御心みこころにににもももありありありけるけるけるかなかなかな。。。おとゞおとゞおとどののの口口くち入入いれれれ給給たまひひいしししにににえええふねかりふねかりふねかりききき」」」とてとてとて引引ひきききたがへたがへたがえ給給たまふふうなるなるなるべしべしべし。。。心心こころ弱弱よわくくくなびきなびきなびきてててももも人人ひと笑笑わらへへえならならならましましましことことことなどなどなど淚淚なみだをををうけうけうけてててののの給給たまへへえばばば、、、姫君姫君ひめぎみいといといとはづかしきはづかしきはずかしきにににもももそこはかとなくそこはかとなくそこはかとなく淚淚なみだのののこぼるれこぼるれこぼるればばばはしたなくはしたなくはしたなくててて背背そむきききたまへたまへたまえるるる、、、らうたげさらうたげさろうたげさかぎりかぎりかぎりなしなしなし。。。
- 3いかにいかにいかにせせせましましまし、、、猶猶なおややや進進すすみみみ出出いでででゝゝて氣色氣色けしきをををとらとらとらましましましなどなどなどおぼしおぼしおぼし亂亂みだれれれててて立立たちちち給給たまひひいぬるぬるぬる名殘名殘なごりももも、、、やがてやがてやがてはしはしはし近近ちこうううながめながめながめ給給たまふふう。。。あやしくあやしくあやしく心心こころおくれおくれおくれてててももも進進すすみみみ出出いづるづるずる淚淚なみだかなかなかな、、、いかにいかにいかにおぼしおぼしおぼしつつつらむらむらんなどなどなど萬萬よろずににに思思おもひひい居居い給給たまへへえるるる程程ほどににに御御おん文文ふみありありあり、、、さすがにさすがにさすがにぞぞぞ見見み給給たまふふう。。。こまやかこまやかこまやかにてにてにて、、、「「「つれなさつれなさつれなさはははうきうきうき世世よののの常常つねににになりなりなり行行ゆくくくををを忘忘わすれれれぬぬぬ人人ひとやややひとひとひとにににことことことなるなるなる」」」とととありありあり。。。氣色氣色けしきばかりばかりばかりもももかすめかすめかすめぬぬぬつれなさつれなさつれなさよよよととと、、、思思おもひひい續續つづけけけ給給たまふふうはははうけれうけれうけれどどど、、、「「「かぎりかぎりかぎりとてとてとて忘忘わすれれれがたきがたきがたきををを忘忘わするゝるゝるるもももこここややや世世よににになびくなびくなびく心心こころなるなるなるらむらむらん」」」とととあるあるあるををを、、、あやしあやしあやしとととうちうちうちおかおかおかれれれずずず傾傾かたぶきぶきぶきつゝつゝつつ見見み居居い給給たまへへえるるるとととぞぞぞ。。。
現代語訳
女君(雲居雁)も、いつもより格別に、大臣(内大臣)が思い嘆いていらっしゃるご様子に、恥ずかしく、つらい身の上だと心を沈めていらっしゃるけれど、表面は平静に、おっとりとして、物思いにふけって過ごしていらっしゃる。夕霧からのお手紙は、思いあまりなさる折々に、しみじみと心深い様子で差し上げなさる。誰の真心を信じたらよいのかと思いながらも、世慣れた人こそ、むやみに人の心を疑うものだ。雲居雁は、しみじみとご覧になる箇所が多い。
「中務宮が、大殿(源氏)にもご意向を伺って、そうしようかとお互いにお考えになっているそうです」と人が申し上げたので、大臣は、うって変わって胸がふさがるのであろう。「ひそかにそのようなことを聞いた。情けない人のお心でもあったことよ。大臣(源氏)が口添えなさった時に、私が強情を張って断ったからだ」と言って、あちらでは別の縁談に乗り換えなさるのだろう。「気弱くなびいても、物笑いになっただろうに」などと、涙を浮かべておっしゃるので、姫君はたいそう恥ずかしいにつけても、何ということもなく涙がこぼれるので、きまり悪くて背を向けていらっしゃるのが、かわいらしさの限りない。
大臣は、どうしたものか、やはり自分から進み出て、意向を探ってみようかなどと思い乱れて、お立ちになった後も、姫君はそのまま端近くで物思いにふけっていらっしゃる。妙に、心ならずも先に流れる涙だこと、父君はどうお思いになったろうかなどと、あれこれと思っていらっしゃるところに、夕霧からのお手紙がある。さすがにご覧になる。細やかに、「つれなさはうき世の常になり行くを忘れぬ人やひとにことなる(あなたのつれなさは、つらい世の常になっていくのに、あなたを忘れない私は、人と違っているのでしょうか)」とある。噂のことを少しもほのめかさないつれなさよと、思い続けなさるのはつらいけれど、「かぎりとて忘れがたきを忘るゝもこや世になびく心なるらむ(もうこれまでと言って、忘れがたい人を忘れるのも、これが世間になびく心なのでしょうか)」とあるのを、夕霧は、妙だと、下に置くこともできずに、首をかしげながら見ていらっしゃったとか。
意訳
夕霧が中務宮の姫君と縁組するらしいという噂を聞いた内大臣は、雲居雁に、源氏が口添えした時に断ったからだと言って涙ぐむ。
夕霧から歌が届き、雲居雁は、噂をほのめかすような歌を返す。夕霧はいぶかしく思って、何度も見返す。
語釈・文法注
文法
- 反実仮想の「まし」(人笑へならましこと)
- 「物笑いになっただろうに」。
- 伝聞の「とぞ」(見居給へるとぞ)
- 「見ていらっしゃったとか」。語り手が伝聞の形で巻を結ぶ。
解説
梅枝の巻は、明石の姫君の華やかな入内準備と、雲居雁と夕霧の行き詰まった恋とを対照的に描いて終わる。中務宮の姫君との縁談の噂は、内大臣の態度を軟化させるきっかけとなる。
雲居雁の歌は、夕霧の縁談の噂を知っていることを、それとなくほのめかしている。夕霧はその意味が分からず、首をかしげる。二人のすれ違いが、次の藤裏葉の巻での和解への伏線となっている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、566–569頁(コマ288–289)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日