源氏物語 第31帖 真木柱(20)
近江の君と夕霧
尚侍を望んだ内大臣の娘の近江の君は、色めいた心まで加わって、内大臣も持て余している。弘徽殿の女御は、軽はずみなことをこの君が引き起こすのではないかと心配し、内大臣も人前に出るなと止めるが、近江の君は聞き入れない。ある秋の夕暮れ、殿上人たちが女御の御方に集まって管弦の遊びをしていると、夕霧もやって来て、いつになく打ち解けて話す。女房たちが珍しがってほめていると、近江の君が人々を押し分けて出て来て、まじめな夕霧を「この人よ、この人よ」とほめそやし、「おきつ船」の歌で夕霧に言い寄る。夕霧は、こんな無遠慮なことを言うのはあの噂の人だと気づき、おかしく思って、「よるべなみ」の歌で、思いもかけない方へは寄らないと冷たく返す。

- 1まことまことまことやややかのかのかのうちうちうちのののおほいおほいおおい殿殿とのののの御御おん娘娘むすめのののないしないしないしのののかみかみかみのぞみのぞみのぞみししし君君きみももも、、、さるさるさるものものものゝゝの僻僻ひがなれなれなればばば色色いろめかしうめかしうめかしゅうさまよふさまよふさまよう心心こころさへさへさへそひそひそいてててもてもてもてわづらひわづらひわずらい給給たまふふう。。。女御女御にようごもももぐひぐひぐいにににあはあはしきあはあはしきあわあわしき事事ことこのこのこの君君きみぞぞぞひきひきひき出出いでででむむんととと、、、ともすればともすればともすれば御御おん胸胸むねつぶしつぶしつぶし給給たまへへえどどどおとゞおとゞおとどののの「「「今今いまはははななな交交まじらひらひらいそそそ」」」ととと、、、制制せいしししののの給給たまふふうをををだにだにだに聞聞きききき入入いれれれずずず交交まじらひらひらい出出いでででゝゝて物物ものししし給給たまふふう。。。
- 2いかなるいかなるいかなる折折おりにににかかかありありありけむけむけん、、、殿上人殿上人てんじょうびとあまたあまたあまたおぼえおぼえおぼえ殊殊ことなるなるなるかぎりかぎりかぎりこのこのこの女御女御にようごののの御御おん方方かたににに參參まいりりりててて物物もののののねねねなどなどなどしらべしらべしらべ懷懷なつかしきかしきかしきほどほどほどののの拍子拍子ひょうしうちうちうち加加くわへへえててて遊遊あそぶぶぶ。。。秋秋あきののの夕夕ゆうべのののたゞたゞただならならならぬぬぬににに、、、宰相宰相さいしょう中將中將ちゅうじょうもももよりよりよりおはしおはしおわしててて例例れいならならならずずず亂亂みだれれれててて物物ものなどなどなどのたまふのたまふのたまうををを、、、人々人々びとめづらしがりめづらしがりめずらしがりててて「「「猶猶なお人人ひとよりよりよりことことことにににももも」」」とととめづるめづるめずるににに、、、このこのこのあふみあふみおうみののの君君きみ人々人々びとののの中中なかをををおしおしおし分分わけけけててて出出いででで居居い給給たまふふう。。。
- 3「「「あなあなあなうたてうたてうたてややや。。。こここはははなぞなぞなぞ」」」とととひきひきひきいるれいるれいるれどどどいといといとさがなげさがなげさがなげににににらみにらみにらみてててはりはりはりゐゐいたれたれたればばばわづらはしくわづらはしくわずらわしくててて、、、あぶなきあぶなきあぶなきことことことやややのたまひのたまひのたまい出出いでででむむんとととつきつきつきかはすかはすかわすににに、、、このこのこの世世よにににめめめなれなれなれぬぬぬまめまめまめ人人びとをををしもしもしも、、、「「「これこれこれぞぞぞなななこれこれこれぞぞぞななな」」」とととめでめでめでゝゝてさゝめきさゝめきささめきさわぐさわぐさわぐ聲聲こえいといといとしるししるししるし。。。人々人々びといといといと苦苦くるしししととと思思おもふふうににに聲聲こえいといといとさわやかさわやかさわやかにてにてにて「「「おきおきおきつつつ船船ふねよるべよるべよるべ浪浪なみ路路じにににたゞよはたゞよはただよわゞゞば棹棹さおさしさしさしよらよらよらむむんとまりとまりとまりをしへよをしへよおしえよ。。。たなゝしたなゝしたななし小小お船船ぶね漕漕こぎぎぎかへりかへりかえりおなじおなじおなじ人人ひとをををややや。。。あなあなあなわるわるわるややや」」」ととといふいふいうををを、、、
- 4いといといとあやしうあやしうあやしゅうこのこのこの御御おん方方かたにににはははかうかうこう用意用意よういなきなきなきことことこと聞聞きこえええぬぬぬものものものをををととと思思おもひひいまはすまはすまわすににに、、、このこのこの聞聞きくくく人人ひとなりなりなりけりけりけりとてとてとて、、、をかしうをかしうおかしゅうててて、、、「「「よるべよるべよるべなみなみなみ風風かぜのののさわがすさわがすさわがすふなふなふな人人びともももおもはおもはおもわぬぬぬかたかたかたににに磯磯いそづたひづたひずたいせせせずずず」」」とてとてとてはしたなかはしたなかはしたなかめりめりめりとととややや。。。
現代語訳
そうそう、あの内大臣の御娘で、尚侍を望んだ君(近江の君)も、そのような変わり者なので、色めいてうろうろする心までも加わって、内大臣も持て余していらっしゃる。女御(弘徽殿の女御)も、いずれ軽はずみなことをこの君が引き起こすだろうと、ともすれば胸をつぶしていらっしゃるけれど、大臣が「今はもう人前に出るな」と制しなさるのさえ聞き入れずに、人前に出ていらっしゃる。
どういう折であったか、殿上人が大勢、評判の格別な者ばかりこの女御の御方に参上して、楽器の音などを調べ、親しみやすい程度の拍子を打ち加えて遊ぶ。秋の夕暮れの、ただならぬ趣の時に、宰相中将(夕霧)も立ち寄られて、いつになく打ち解けて話などなさるのを、女房たちが珍しがって、「やはり人よりも格別に」とほめていると、この近江の君が、人々の中を押し分けて出ていらっしゃる。
女房たちは「まあ嫌な。これはどうしたこと」と引き入れようとするけれど、たいそう意地悪そうににらんで頑張っているので、わずらわしくて、危ないことでもおっしゃり出すのではないかと突つき合っていると、この世に見慣れないほどのまじめ人(夕霧)を、「この方よ、この方よ」とほめてささやき騒ぐ声が、たいそうはっきり聞こえる。人々がたいそう困ったことだと思っていると、近江の君はたいそうはきはきとした声で、「おきつ船よるべ浪路にたゞよはゞ棹さしよらむとまりをしへよ(沖の舟が寄る辺もなく波路に漂っているならば、棹さして寄っていきますから、泊まる所を教えてください)。棚無し小舟が漕ぎ返るように、同じ人を思い続けているのでしょうか。まあ嫌だ」と言うのを、
夕霧は、たいそう妙だ、この御方ではこのように心づかいのないことは聞かないのにと思いめぐらすと、あの噂に聞く人だったのだと気づいて、おかしくて、「よるべなみ風のさわがすふな人もおもはぬかたに磯づたひせず(寄る辺がなくて、風に揺られている舟人も、思いもかけない方へ磯伝いに寄ることはしません)」と言って、きまり悪くさせたようだとか。
意訳
近江の君は、色めいた心まで加わって、内大臣も持て余している。ある秋の夕暮れ、近江の君は、弘徽殿の女御の御方で夕霧を見かけて、人々を押し分けて出て来て、歌で言い寄る。
夕霧は、噂の近江の君だと気づいて、思いもかけない方へは寄らないと、冷たく歌を返す。
語釈・文法注
文法
- 禁止の「な…そ」(今はな交らひそ)
- 「今はもう人前に出るな」。
- 伝聞の「とや」(はしたなかめりとや)
- 「きまり悪くさせたようだとか」。語り手が伝聞の形で巻を結ぶ。
解説
真木柱の巻は、髭黒の北の方の悲劇、玉鬘の結婚と出産という重い話題の後に、近江の君の滑稽な場面で結ばれる。まじめな夕霧に言い寄る近江の君の姿は、物語に笑いをもたらしている。
近江の君の歌の「おなじ人をや」は、夕霧が雲居雁を一途に思い続けていることを当てこするものである。夕霧の返歌は、雲居雁以外には心を寄せないという、夕霧の誠実さを表している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、554–557頁(コマ282–283)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日