源氏物語 第30帖 藤袴(8)
九月の恋文
九月になり、初霜の降りた美しい朝、求婚者たちから恋文が届くが、玉鬘は自分では見ず、女房が読み上げるのを聞くだけである。髭黒の大将は、長月に命をかけていると詠み、兵部卿宮は、宮仕えに出ても自分を忘れないでほしいと、霜のついたままの笹に結んで贈る。式部卿宮の子の左兵衛督も、忘れようとしても悲しいと恨む。女房たちは、これらの恋が絶えてしまうのは寂しいと言う。玉鬘は、兵部卿宮にだけ、ほんの少し「心もて」の歌を返し、宮はたいそう喜ぶ。玉鬘の心ばえを、大臣たちは女の手本にすべきだと評する。

- 1九九なが月月つきにににもももなりなりなりぬぬぬ。。。初初はつ霜霜しもむすぼゝれむすぼゝれむすぼおれ艶艶えんなるなるなるあしたあしたあしたににに、、、例例れいのののとりどりとりどりとりどりなるなるなる御御おん後後うしろ見見みどもどもどもののの引引ひきききそばみそばみそばみつゝつゝつつもてもてもてまゐるまゐるまいる御御おん文文ふみどもどもどもををを、、、見見み給給たまふふう事事こともももなくなくなくててて讀讀よみみみ聞聞きこゆるゆるゆるばかりばかりばかりををを聞聞きききき給給たまふふう。。。
- 2大將大將だいしょう殿殿どののののにににははは「「「猶猶なお頼頼たのみみみこしこしこしももも過過すぎぎぎゆくゆくゆく空空そらのののけしきけしきけしきこそこそこそ心心こころづくしづくしずくしににに數數かずならならならばばばいとひいとひいといもももせせせましましまし長長なが月月つきににに命命いのちをををかくるかくるかくる程程ほどぞぞぞはかなきはかなきはかなき。。。月月つきたゝたゝたたばばば」」」とととあるあるあるさだめさだめさだめをををいといといと能能よくくく聞聞きききき給給たまふふうなななめりめりめり
- 3兵部卿兵部卿ひょうぶきょうののの宮宮みやははは「「「いふいふいうかひかひかいなきなきなき世世よははは聞聞きこえええむむんかたかたかたなきなきなきををを、、、朝朝あさ日日ひさすさすさす光光ひかりををを見見みてててももも玉玉たま笹笹ざさののの葉葉は分分わけののの霜霜しもをををけたけたけたずずずもももあらあらあらなむなむなん。。。覺覺おぼしししだにだにだにしらしらしらばばば慰慰なぐさむむむ方方かたもももありありありぬぬぬべくべくべくなむなむなん」」」とてとてとていといといとかしけかしけかしけたるたるたる下下したをれをれおれののの、、、霜霜しももももおとさおとさおとさずずずもてもてもて參參まいれれれるるる御御おん使使つかいさへさへさへぞぞぞうちうちうちあひあひあいたるたるたるややや。。。
- 4式部卿式部卿しきぶきょうののの宮宮みやののの左左さ兵兵ひょう衛衛え督督かみははは殿殿とのののの上上うえののの御御おんはらからはらからはらからぞぞぞかしかしかし。。。親親したしくしくしく參參まいりりりなどなどなどししし給給たまふふう君君きみなれなれなればばば、、、おのづからおのづからおのずからいといといとよくよくよく物物もののののあないあないあないももも聞聞ききききててていみじくいみじくいみじくぞぞぞ思思おもひひい侘侘わびびびけるけるける。。。いといといと多多おおくくく恨恨うらみみみ續續つづけけけててて「「「忘忘わすれれれなむなむなんととと思思おもふふうももも物物ものののの悲悲かなしきしきしきをををいかさまいかさまいかさまにににしししててていかさまいかさまいかさまにににせせせむむん」」」。。。
- 5紙紙かみののの色色いろ墨墨すみつきつきつきまめまめまめたるたるたるにほひにほひにおいもももさまざまさまざまさまざまなるなるなるををを、、、人々人々びとももも皆皆みな「「「おぼしおぼしおぼし絕絕たえええぬぬぬべかべかべかめるめるめるこそこそこそさうざうしけれさうざうしけれそうぞうしけれ」」」などなどなどいふいふいう。。。宮宮みやののの御御おんかへりかへりかえりをををぞぞぞいかゞいかゞいかがおぼすおぼすおぼすらむらむらん。。。たゞたゞただいさゝかいさゝかいささかにてにてにて、、、「「「心心こころもてもてもて日日ひかげかげかげにににむかふむかふむかうあふひあふひあおいだにだにだに朝朝あさおくおくおく霜霜しもをををおのれおのれおのれやはやはやはけつけつけつ」」」とととほのかほのかほのかなるなるなるをををいといといとめづらしめづらしめずらしととと見見み給給たまふふうににに、、、みづからみづからみずからははは哀哀あわれををを知知しりりりぬぬぬべきべきべき御御おんけしきけしきけしきにににかけかけかけ給給たまへへえれれればばば、、、露露つゆばかりばかりばかりなれなれなれどどどいといといとうれしかりうれしかりうれしかりけりけりけり。。。かやうかやうかようににに何何なにとととなけれなけれなけれどどどさまざまさまざまさまざまなるなるなる人々人々びとののの御御おんわびわびわびことことこともももおほかりおほかりおおかり。。。女女おんなののの御御おん心心こころばへばへばえににに、、、このこのこの君君きみをををなむなむなんほんほんほんにににすすすべきべきべきとととおとゞおとゞおとどたちたちたち定定さだめめめ聞聞きこえええ給給たまひひいけりけりけり。。。
現代語訳
九月にもなった。初霜が結んで優美な朝に、いつものように、それぞれの求婚者の後見役の女房たちが、そっと隠すようにして持って参るお手紙を、玉鬘はご覧になることもなく、女房が読み上げるのだけをお聞きになる。
大将殿のお手紙には、「やはり頼みにしてきましたが、過ぎてゆく空の様子こそ、気をもませることです。數ならばいとひもせまし長月に命をかくる程ぞはかなき(人並みの身であれば、九月の結婚を忌むこともしましょうが、その長月に命をかけている私は、はかないことです)。月が改まったら」とあるのを、出仕の決まりをよくお聞きになっているようだ。
兵部卿宮は、「言っても仕方のない仲は、申し上げようもありませんが、朝日さす光を見ても玉笹の葉分の霜をけたずもあらなむ(朝日のさす光〈帝のご寵愛〉を見ても、笹の葉の間の霜〈私〉を消さずにいてほしい)。せめてお心にとめてくださるならば、慰めようもあるでしょう」と言って、たいそうしおれた下折れの笹に、霜も落とさずに持って参ったお使いまでもが、歌の趣に合っていることよ。
式部卿宮の御子の左兵衛督は、殿の上(紫の上)の御兄弟であるよ。六条院に親しく参上などなさる君なので、自然とたいそうよく事情も聞いて、ひどく思い悩んでいた。たいそう多く恨み言を書き連ねて、「忘れなむと思ふも物の悲しきをいかさまにしていかさまにせむ(忘れてしまおうと思うのも悲しいのを、どのようにして、どうしたらよいのでしょう)」。
紙の色や墨つき、焚きしめた香の匂いもさまざまなのを、女房たちも皆「お思い切りになってしまいそうなのが、寂しいこと」などと言う。兵部卿宮へのお返事を、どうお思いになったのだろうか。ただほんの少し、「心もて日かげにむかふあふひだに朝おく霜をおのれやはけつ(自分から日の光に向かう葵でさえ、朝置く霜を自分から消すでしょうか)」と、ほのかに書いてあるのを、宮はたいそう珍しいとご覧になると、玉鬘自身は宮の思いを知っているような様子で書いていらっしゃるので、ほんの少しではあるが、たいそううれしかった。このように、何ということもないけれど、さまざまな人々の嘆きの言葉が多い。女のお心ばえとしては、この君を手本にすべきだと、大臣たちはお定め申し上げなさった。
意訳
九月になり、髭黒の大将、兵部卿宮、左兵衛督などの求婚者たちから恋文が届くが、玉鬘は女房が読み上げるのを聞くだけである。
玉鬘は、兵部卿宮にだけほんの少し歌を返し、宮はたいそう喜ぶ。大臣たちは、玉鬘の心ばえを女の手本にすべきだと評する。
語釈・文法注
文法
- 願望の「なむ」(霜をけたずもあらなむ)
- 他者への願望の終助詞。「消さずにいてほしい」。
- 反語の「やは」(おのれやはけつ)
- 「自分から消すでしょうか、いや、消しはしません」。
解説
九月は婚姻を忌む月とされていた。髭黒の歌は、その長月に命をかけていると詠み、十月の出仕の前に何とか結婚したいという焦りを表している。
玉鬘が兵部卿宮にだけ返事をしたことは、玉鬘の心が宮に傾いていたことを示している。しかし、次の真木柱の巻で、玉鬘は思いもよらず髭黒のものとなる。藤袴の巻は、その急転直下の展開を前にした、静かな結びとなっている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、530–531頁(コマ270)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日