源氏物語 第29帖 行幸(16)
近江の君と内大臣
近江の君の望みを聞いた内大臣は、華やかに笑って、女御の御方に参ったついでに近江の君を呼び出す。内大臣が、尚侍のことをどうして早く自分に言わなかったのかとまじめな顔で言うと、近江の君は喜んで、女御から伝えてもらえると頼みにしていたのに、なるべき人がいると聞いて夢で富を得たような気持ちだと、早口でまくしたてる。内大臣は笑いをこらえて、申文を書いて長歌でも添えれば帝もお捨てにならないだろうとけしかける。近江の君は手をすり合わせて喜び、几帳の陰の女房たちは笑いをこらえきれない。女御は顔を赤らめて見苦しく思い、世間の人は、内大臣が恥ずかしさのあまり近江の君をはずかしめているのだと噂する。

- 1おとゞおとゞおとどこのこのこの望望のぞみををを聞聞きききき給給たまひひいててていといといと華華はなやかやかやかにににうちうちうち笑笑わらひひい給給たまひひいててて、、、女御女御にようごののの御御おん方方かたににに參參まいりりり給給たまへへえるるる序序ついでににに、、、「「「いづらいづらいずら、、、このこのこのあふみあふみおうみののの君君きみ。。。こなたこなたこなたににに」」」ととと召召めせせせばばば「「「ををを」」」ととといといといとけざやかけざやかけざやかににに聞聞きこえええててて出出いででで來來きたりたりたり。。。「「「いといといと仕仕つかへへえたるたるたる御御おんけはひけはひけわいおほやけおほやけおおやけ人人びとにてにてにてげにげにげにいかにいかにいかにあひあひあいたらたらたらむむん。。。ないしないしないしのののかみかみかみのののことことことはははなどなどなどかかかおのれおのれおのれににに疾疾とくくくははは物物ものせせせざりざりざりししし」」」ととといといといとまめやかまめやかまめやかにてにてにてのたまへのたまへのたまえばばば、、、
- 2いといといと嬉嬉うれしししととと思思おもひひいててて「「「さささももも御御おん氣色氣色けしき給給たまはらはらわらままま欲欲ほしうしうしゅう侍侍はべりりりしかしかしかどどどこのこのこの女御女御にようご殿殿どのなどなどなどおのづからおのづからおのずから傳傳つたへへえ聞聞きこえええさせさせさせ給給たまひひいてててむむんととと賴賴たのみみみふくれふくれふくれてててなむなむなん侍侍さぶらひひいつるつるつるををを、、、なるなるなるべきべきべき人人ひとものしものしものし給給たまふふうやうやうようににに聞聞きききき給給たまふれふれうればばば夢夢ゆめにににとみとみとみしししたるたるたる心地心地ここちししし侍侍はべりりりてててなむなむなん胸胸むねににに手手てををを置置おきききたるたるたるやうやうようににに侍侍はべるるる」」」ととと申申もうししし給給たまふふう舌舌したぶりぶりぶりいといといと物物もの爽爽さわやかかかなりなりなり。。。
- 3笑笑えみみみ給給たまひひいぬぬぬべきべきべきををを念念ねんじじじててて「「「いといといとあやしうあやしうあやしゅう覺束覺束おぼつかなきなきなき御御おん癖癖くせなりなりなりやややさささももも覺覺おぼしししののの給給たまははわましかましかましかばばばまづまづまず人人ひとのののさきさきさきににに奏奏そうしししてててましましまし。。。おほきおほきおおきおとゞおとゞおとどののの御御おん娘娘むすめやんごとなくやんごとなくやんごとなくともともとも、、、こゝこゝここにににせちせちせちににに申申もうさささむむん事事ことははは聞聞きこししし召召めさささぬぬぬやうやうようあらあらあらざらざらざらましましまし。。。今今いまにてにてにてももも申申もうし文文ぶみををを取取とりりり綴綴つづりりりててて、、、びゞしうびゞしうびびしゅう書書かききき出出いださださだされれれよよよ。。。長長なが歌歌うたなどなどなどののの心心こころばへばへばえあらあらあらむむんををを御覽御覽ごらんぜぜぜむむんにににははは捨捨すてててさせさせさせ給給たまははわじじじ。。。上上うえはははそのそのその內內うちににに情情なさけ捨捨すてててずずずおはしませおはしませおわしませばばば」」」などなどなどいといといと善善ようううすかしすかしすかし給給たまふふう。。。人人ひとのののおやおやおやげなくげなくげなくかたはかたはかたわなりなりなりややや。。。
- 4「「「大大やま和和と歌歌うたはははあやしくあやしくあやしくももも續續つづけけけ侍侍はべりりりなむなむなん。。。むねむねしきむねむねしきむねむねしき方方かたののの事事ことはははたたた殿殿とのよりよりより申申もうさささせせせ給給たまははわゞゞば、、、つまごゑつまごゑつまごえのののやうやうようにてにてにて御御おんをををももも蒙蒙こうぶりりり侍侍はべらららむむん」」」とてとてとて、、、手手てをををおしおしおし摺摺すりりりててて聞聞きこえええ居居い給給たまへへえりりり。。。御御おん几帳几帳きちょうののの後後うしろなどなどなどにてにてにて聞聞きくくく女房女房にょうぼう死死しぬぬぬべくべくべく覺覺おぼゆゆゆ。。。物物もの笑笑わらひひいににに堪堪たへへえぬぬぬはははすべりすべりすべり出出いでででゝゝてなむなむなん慰慰なぐさめめめけるけるける。。。
- 5女御女御にようごももも御御おんおもておもておもて赤赤あかみみみてててわりなうわりなうわりのう見見み苦苦ぐるしししととと覺覺おぼしししたりたりたり。。。殿殿とのももも「「「物物ものむづかしきむづかしきむずかしき折折おりはははあふみあふみおうみののの君君きみ見見みるるるこそこそこそ萬萬よろず紛紛まぎるれるれるれ」」」とてとてとて唯唯ただ笑笑わらひひいぐさぐさぐさにににつくりつくりつくり給給たまへへえどどど世世よののの人人ひとははは「「「耻耻はぢぢじがてらがてらがてらはしたなめはしたなめはしたなめ給給たまふふう」」」などなどなどさまざまさまざまさまざま言言いひひいけりけりけり。。。
現代語訳
大臣(内大臣)は、この望みをお聞きになって、たいそう華やかにお笑いになって、女御の御方に参上なさったついでに、「どこにいる、この近江の君は。こちらへ」とお呼びになると、近江の君は「はい」とたいそうはっきりと答えて出て来た。「たいそうよくお仕えしている様子で、公の勤めの人として、本当にどんなにふさわしいことだろう。尚侍のことは、どうして私に早く言わなかったのか」と、たいそうまじめな顔でおっしゃるので、
近江の君はたいそううれしいと思って、「そのようにご意向を伺いたいと存じておりましたけれど、この女御様などが自然とお伝え申し上げてくださるだろうと、頼みにふくらんでおりましたのに、なるはずの人がいらっしゃるように聞きましたので、夢で富を得た心地がしまして、胸に手を置いたような気持ちでございます」と申し上げなさる舌の回り方は、たいそう歯切れがよい。
内大臣は、笑ってしまいそうなのをこらえて、「たいそう妙に、はっきりしないお癖だなあ。そのようにお思いになっておっしゃったならば、まず人より先に帝に奏上したのに。太政大臣の御娘がどんなに高貴でも、私が強く申し上げることは、お聞き入れにならないことはなかっただろう。今からでも、申文を書いて、立派にお書きなさい。長歌などの趣向のあるものをご覧になれば、帝もお捨てにはならないだろう。帝はそういう中でも、情けをお捨てにならない方だから」などと、たいそうたくみにおだてなさる。人の親らしくもなく、みっともないことよ。
近江の君は「和歌は、下手でもどうにか続けられましょう。改まった方面のことは、また殿から申し上げてくださるならば、つまごえのように添えて、お恵みをこうむりましょう」と言って、手をすり合わせて申し上げていらっしゃる。御几帳の後ろなどで聞いている女房たちは、死ぬほどおかしく思う。笑いをこらえきれない者は、すべり出て気を晴らした。
女御もお顔を赤らめて、ひどく見苦しいとお思いになっている。殿も「気分がふさいでいる時は、近江の君を見ると何もかも紛れる」と言って、ただ笑いの種にしていらっしゃるけれど、世間の人は「恥ずかしさのあまり、わざとはずかしめていらっしゃるのだ」などと、さまざまに言った。
意訳
内大臣は、近江の君を呼び出して、まじめな顔で尚侍のことを尋ね、申文を書いて長歌でも添えればよいとけしかける。近江の君は手をすり合わせて喜ぶ。
女房たちは笑いをこらえきれず、女御は見苦しく思う。世間の人は、内大臣が恥ずかしさのあまり近江の君をはずかしめているのだと噂する。
語釈・文法注
- つまごゑ
- 意味が定まらない語。歌の調子をととのえるために添える声とも、「妻声」で、主となる声に添える声ともいう。近江の君らしい、いいかげんな言葉づかいである。
文法
- 反実仮想の「ましかば…まし」(の給はましかばまづ人のさきに奏してまし)
- 「おっしゃっていたならば、まず人より先に奏上したのに」。
- 「ざらまし」(聞し召さぬやうあらざらまし)
- 反実仮想。「お聞き入れにならないことはなかっただろう」。
解説
内大臣は、近江の君をからかって笑いの種にする。しかし語り手は「人のおやげなくかたはなりや」と批判し、世間の人も内大臣の態度を冷ややかに見ている。玉鬘を手厚く扱う源氏と、近江の君を笑いものにする内大臣の対比は鮮やかである。
行幸の巻は、玉鬘の裳着という晴れやかな儀式と、近江の君の滑稽な騒ぎとで結ばれる。同じ内大臣の娘でありながら、育った環境の違いによって、二人の運命は大きく分かれている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、520–523頁(コマ265–266)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日