源氏物語 第14帖 澪標(7)
花散里の訪問
紫の上の機嫌をとるのに忙しく、源氏は花散里を訪れずにいた。五月雨のころ、源氏は久しぶりに花散里を訪ねる。荒れた邸で、花散里はおっとりと源氏を迎え、水鶏の声にことよせて歌を詠む。源氏も歌を返し、二人は語り合う。源氏は、穏やかでかわいらしい花散里を、捨てがたい人だと思う。

- 1かくかくかくこのこのこの御心御心みこころとりとりとり給給たまふふう程程ほどににに花散里花散里はなちるさとをををかれかれかれはてはてはて給給たまひひいぬるぬるぬるこそこそこそいとほしけれいとほしけれいとおしけれ。。。おほやけおほやけおおやけごとごとごとゞゞどもももしげくしげくしげく所所ところせきせきせき御身御身おんみににに、、、おぼしおぼしおぼし憚憚はばかるるるにににそへそへそえてててももも、、、珍珍めずらしくしくしく御御おん目目め驚驚おどろくくくことことことのののなきなきなき程程ほど思思おもひひいしづめしづめしずめ給給たまふふうなりなりなりけりけりけり。。。
- 2五月雨五月雨さみだれのののつれづれつれづれつれずれなるなるなるころころころ、、、おほやけおほやけおおやけわたくしわたくしわたくし物物ものしづかしづかしずかなるなるなるにににおぼしおぼしおぼし起起おこしししててて渡渡わたりりり給給たまへへえりりり。。。よそよそよそながらながらながらももも明暮明暮あけくれにににつけつけつけてててよろづよろづよろずにににおぼしおぼしおぼしやりやりやりとぶらひとぶらひとぶらい給給たまふふうをををたのみたのみたのみにてにてにてすぐいすぐいすぐい給給たまふふう所所ところなれなれなればばば、、、今今いまめかしうめかしうめかしゅう心心こころにくきにくきにくきさまさまさまにににそばみそばみそばみ恨恨うらみみみ聞聞きこえええ給給たまふふうべきべきべきならならならねねねばばば心心こころやすげやすげやすげなりなりなり。。。
- 3年比年比としごろにににいよいよいよいよいよいよ荒荒あれれれまさりまさりまさりすごげすごげすごげにてにてにておはすおはすおわす。。。女御女御にょうごののの君君きみににに御御おん物語物語ものがたり聞聞きこえええ給給たまひひいててて西西にしののの妻戶妻戶つまどににに夜夜よふかしふかしふかしててて立立たちちち寄寄よりりり給給たまへへえりりり。。。月月つきおぼろおぼろおぼろにににさしさしさし入入いりりりててていとゞいとゞいとどえんえんえんなるなるなる御御おんふるまひふるまひふるまい盡盡つきききもももせせせずずず見見みえええ給給たまふふう。。。
- 4いとゞいとゞいとどつゝましけれつゝましけれつつましけれどどどはしはしはし近近ちこううう眺眺ながめめめ給給たもうううけるけるけるさまさまさまながらながらながらのどやかのどやかのどやかにてにてにて物物ものししし給給たまふふうけはひけはひけわいいといといとめやすしめやすしめやすし。。。水鷄水鷄くいなのののいといといと近近ちこううう鳴鳴なきききたるたるたるををを、、、「「「くひなくひなくいなだにだにだに驚驚おどろかさかさかさずずずはははいかにいかにいかにしししててて荒荒あれれれたるたるたるやどやどやどににに月月つきをををいれいれいれましましまし」」」。。。
- 5いといといとなつかしうなつかしうなつかしゅう言言いひひいけちけちけち給給たまへへえるるるぞぞぞとりどりとりどりとりどりににに捨捨すてててがたきがたきがたき世世よかなかなかな、、、かゝるかゝるかかるこそこそこそなかなかなかなかなかなか身身みももも苦苦くるしけれしけれしけれとととおぼすおぼすおぼす。。。「「「おしなべておしなべておしなべてたゝくたゝくたたくくひなくひなくいなににに驚驚おどろかかかばばばうはうはうわののの空空そらなるなるなるつきつきつきもももこそこそこそいれいれいれ。。。後後うしろめたうめたうめとう」」」とととははは猶猶なおことことことににに聞聞きこえええ給給たまへへえどどど、、、あだあだしきあだあだしきあだあだしきすぢすぢすじなどなどなど疑疑うたがははわしきしきしき御心御心こころばへばへばえにににはははあらあらあらずずず。。。
- 6年比年比としごろまちまちまち過過すぐしぐしぐし聞聞きこえええ給給たまへへえるるるももも更更さらにににおろかおろかおろかにににはははおぼえおぼえおぼえざりざりざりけりけりけり。。。空空そらなななながめながめながめ給給たまひひいとととたのめたのめたのめ聞聞きこえええ給給たまひひいしししをりをりおりのののことことことゞゞどももものののたまひたまひたまい出出いでででゝゝて、、、「「「などなどなどてててたぐひたぐひたぐいあらあらあらじじじととといみじういみじういみじゅう物物ものををを思思おもひひい沈沈しずみみみけむけむけん。。。うきうきうきみみみからからからははは同同おなじじじなげかしさなげかしさなげかしさにににこそこそこそ」」」とととののの給給たまへへえるるるもももおいらかおいらかおいらかにににらうたげらうたげろうたげなりなりなり。。。
- 7例例れいのののいづこいづこいずこののの御御おん言言ことののの葉葉はにににかかかあらあらあらむむん、、、盡盡つきききせせせずずずぞぞぞ語語かたらひらひらい慰慰なぐさめめめ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
現代語訳
こうして紫の上のご機嫌をとっていらっしゃるうちに、花散里をすっかりお見限りになってしまったのは、気の毒なことである。公の用事も多く、窮屈なご身分なので、遠慮なさるのに加えても、珍しくお目を驚かすようなことがない間は、お心を静めていらっしゃるのだった。五月雨のころの所在ないころ、公私ともに暇なので、思い立ってお訪ねになった。離れていても、明け暮れにつけて何かと思いやってお世話なさるのを頼みにして暮らしていらっしゃる所なので、当世風に気取って、すねて恨み申し上げなさるようなこともないので、源氏は気が楽である。
邸は年月とともにいっそう荒れまさって、ものさびしい様子でいらっしゃる。女御の君(麗景殿女御)にお話を申し上げなさって、西の妻戸に夜が更けてからお立ち寄りになった。月がおぼろに差し込んで、いっそう優美なお振る舞いが、限りなくすばらしくお見えになる。花散里はいっそう気後れするけれど、端近くで物思いにふけっていらっしゃった様子のまま、おっとりとしていらっしゃる気配は、たいそう感じがよい。水鶏がたいそう近くで鳴いているので、「せめて水鶏が戸をたたくように鳴いて知らせてくれなかったら、どうやってこの荒れた宿に月をお入れできたでしょう」。
たいそう親しみ深く恨み言を言い消していらっしゃるのを、源氏は、それぞれに捨てがたい女たちであることよ、こういうことこそかえって身も苦しいのだとお思いになる。「どの戸でもたたく水鶏の声にいちいち驚いて戸を開けたら、浮ついた空の月も入ってくるかもしれません。心配です」とは、やはり言葉の上ではお申し上げになるけれど、浮気めいたことなど疑わしいお人柄ではない。長年待ち続けていらっしゃったのも、決していいかげんなことには思われなかった。
「空を見て物思いにふけりなさるな」と頼みにさせ申し上げなさった時のことなどをお話しになって、花散里は「どうして、またとないほどひどくつらいと物思いに沈んだのでしょう。つらい身の上からすれば、同じ嘆かわしさですのに」とおっしゃるのも、おっとりとしてかわいらしい。源氏は、例によってどこから出てくるお言葉なのだろうか、尽きることなく語り慰め申し上げなさる。
意訳
源氏は、紫の上に気をつかううちに、花散里を久しく訪れずにいた。五月雨のころ、源氏は荒れた邸に花散里を訪ねる。
花散里は恨みもせず、おっとりと源氏を迎え、水鶏の声にことよせて歌を詠む。源氏は、穏やかでかわいらしい花散里を、捨てがたい人だと思い、尽きることなく語り慰める。
語釈・文法注
- 空なながめ給ひそ
- 須磨に下る前、源氏が花散里に「月影のやどれる袖はせばくともとめても見ばやあかぬ光を」の歌に添えて慰めたことを指す。「空を見て嘆きなさるな」と頼みにさせたのである。
文法
- 反実仮想の「ずは…まし」(驚かさずはいかにして…いれまし)
- 「知らせてくれなかったら、どうやって入れられただろう」。
- 禁止の「な…そ」(空なながめ給ひそ)
- 「空を見て物思いにふけりなさるな」。
和歌
くひなだに驚かさずはいかにして荒れたるやどに月をいれまし
- 詠者
- 花散里
- 状況
- 源氏の訪れを、水鶏の声にことよせて詠んだ歌。せめて水鶏が戸をたたくように鳴いて知らせてくれなかったら、どうやってこの荒れた宿に月(あなた)をお入れできたでしょう。
修辞
- 見立て
- 水鶏の鳴き声は戸をたたく音に似ているとされた。訪れた源氏を「月」に見立てる。
おしなべてたゝくくひなに驚かばうはの空なるつきもこそいれ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 花散里への返歌。どの戸でもたたく水鶏の声にいちいち驚いて戸を開けたら、浮ついた空の月(ほかの男)も入ってくるかもしれません。
修辞
- 掛詞
- 「つき」に「月」と「付き(寄りつく男)」の意をひびかせる。
解説
花散里は、嫉妬もせず、恨み言も言わない穏やかな女性として描かれる。紫の上の嫉妬が描かれた直後に置かれることで、その対比が際立っている。
源氏が花散里を二条東院に迎えようとするのは、こうした穏やかな人柄を信頼してのことである。花散里はのちに夕霧の養育を任されるなど、源氏の家庭の中で重要な役割を果たしていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、292–293頁(コマ149)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日