万葉集 巻第二十 4449〜4451番
なでしこが 花取り持ちて
5月18日、左大臣橘諸兄が兵部卿橘奈良麻呂の家で宴をした時の歌三首。なでしこの花を手に持って、つくづく見ていたいあなたですという船王の歌、あなたの家のなでしこは散ることがあろうか、いよいよ初花のように咲きまさってもという家持の歌、いとしく私が思うあなたは、なでしこの花になぞらえて見ても見飽きないという家持の歌。
場面イラスト(準備中)
題詞十八日、左大臣、兵部卿橘奈良麻呂朝臣の宅に宴せる歌三首
- 1なでしこなでしこなでしこががが奈弖之故我4449 船王
- 2花花はな取取とりりり持持もちちちててて波奈等里母知弖
- 3うつらうつらうつらうつらうつらうつら宇都良宇都良
- 4見見みまくまくまくののの欲欲ほしきしきしき美麻久能富之伎
- 5君君きみにににもももあるあるあるかもかもかも吉美爾母安流加母
- 6我我わががが兄子兄子せこががが和我勢故我4450 家持
- 7宿宿やどのののなでしこなでしこなでしこ夜度能奈弖之故
- 8散散ちらららめめめやもやもやも知良米也母
- 9いやいやいや初初はつ花花はなににに伊夜波都波奈爾
- 10咲咲さきききははは益益ますすすともともとも佐伎波麻須等母
- 11愛愛うるわしみしみしみ宇流波之美4451 家持
- 12我我あががが思思もふふう君君きみははは安我毛布伎美波
- 13なでしこなでしこなでしこががが奈弖之故我
- 14花花はなににに比比なぞへへえててて波奈爾奈曾倍弖
- 15見見みれれれどどど飽飽あかかかぬぬぬかもかもかも美禮杼安可奴香母
現代語訳
〔4449〕なでしこの花を手に取り持って、つくづくと見ていたいあなたでいらっしゃいます。
〔4450〕あなたの家のなでしこは散ることがあろうか。いよいよ初花のように咲きまさることはあっても。
〔4451〕いとしく私が思うあなたは、なでしこの花になぞらえて見ても、見飽きることがありません。
意訳
主人の奈良麻呂の家のなでしこに寄せて、主人をたたえ、その家の栄えを祝う歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- うつらうつら
- つくづくと、まざまざと。
- 見まくの欲しき
- 見たい。
- 散らめやも
- 散ることがあろうか、ありはしない。
- 比へて
- 「なぞへて」。なぞらえて。
- 追ひ作れり
- 宴の後から作った。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第二十・部立なし・4449〜4451番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 5月18日、左大臣橘諸兄が子の橘奈良麻呂の家で宴をした時の歌。
修辞
- 比喩
- 主人をなでしこの花にたとえる。
- 反語
- 「散らめやも」。
解説
橘奈良麻呂は諸兄の子。のち天平宝字元年(757)に乱を企てて捕らえられる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、742頁(コマ164)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、876頁(コマ202)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日