古典ライブラリー

万葉集 巻第二十 4446〜4448番

我が宿に 咲けるなでしこ

作者未詳

5月11日、左大臣橘諸兄が右大弁丹比国人の家で宴をした時の歌三首。わが家に咲くなでしこよ、贈り物はしよう、決して散るな、いよいよ若返って咲けという国人の歌、贈り物をしながらあなたが言いつけるなでしこの花だけを訪ねて来る私ではないのにという諸兄の答えの歌、紫陽花の八重に咲くように、幾代までもお元気でいてください、わが君を見ながら偲ぼうという諸兄の歌。

宴の庭に咲くなでしこと紫陽花

題詞同じき月十一日、左大臣橘卿、右大辨丹比國人眞人の宅に宴せる歌三首

  1. 1我わ我わわががが宿やど宿やどやどににに和我夜度爾4446 丹比国人
  2. 2咲さ咲ささけけけるるるなでしこなでしこなでしこ佐家流奈弖之故
  3. 3幣まひ幣まひまいははは爲せ爲せせむむん麻比波勢牟
  4. 4ゆめゆめゆめ花はな花はなはな散ち散ちちるるるななな由米波奈知流奈
  5. 5いやいやいやをちをちおちににに咲さ咲ささけけけ伊也乎知爾左家
  6. 6幣まひ幣まひまいしししつつつつつつ麻比之都都4447 橘諸兄
  7. 7君きみ君きみきみがががおほせおほせおおせるるる伎美我於保世流
  8. 8瞿麥なでしこ瞿麥なでしこなでしこががが奈弖之故我
  9. 9花はな花はなはなのみのみのみ訪と訪ととははわむむん波奈乃未等波無
  10. 10君きみ君きみきみならならならなくなくなくににに伎美奈良奈久爾
  11. 11紫陽花あぢさゐ紫陽花あぢさゐあじさいののの安治佐爲能4448 橘諸兄
  12. 12八重やへ八重やへやえ咲さ咲ささくくく如ごと如ごとごとくくく夜敝佐久其等久
  13. 13やつやつやつ世よ世よよにににををを夜都與爾乎
  14. 14いませいませいませ我わ我わわががが兄子せこ兄子せこせこ伊麻世和我勢故
  15. 15見み見みみつつつつつつしぬばしぬばしぬばむむん美都都思努波牟

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔4446〕わが家に咲いているなでしこよ、贈り物はしよう。決して花よ散るな。いよいよ若返って咲け。

〔4447〕贈り物をしながらあなたが言いつけるなでしこの、その花だけを訪ねて来るような私ではないのに。

〔4448〕紫陽花が八重に咲くように、幾代までもお元気でいてください、わが君よ。その姿を見ながら偲びましょう。

意訳

主人の国人が庭のなでしこに長く咲けと呼びかけて客の左大臣の長寿を祝い、左大臣は花だけでなくあなたに会いに来たのだと答え、さらに紫陽花に寄せて主人の長寿を祝った。

語釈・文法注

文法・本文

幣
「まひ」。贈り物。
ゆめ……な
決して……するな。
いやをちに
いよいよ若返って。
おほせる
言いつける。
やつ世
幾代も。「八つ代」。
いませ
いらっしゃい。お元気で。

和歌

作者
作者未詳
出典
『万葉集』巻第二十・部立なし・4446〜4448番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
状況
5月11日、左大臣橘諸兄が右大弁丹比国人の家で宴をした時の歌。

修辞

比喩
4448番で、紫陽花の八重咲きに「やつ世」を重ねる。
贈答
主人と客が互いに長寿を祝う。

解説

紫陽花を詠んだ歌は、万葉集にこの歌と巻四の大伴家持の歌の二首しかない。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、741頁(コマ163)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、875頁(コマ201)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日