万葉集 巻第二十 4404〜4407番
難波道を 往きて來までと
天平勝宝7年2月、上野国の防人たちの歌四首。難波への道を往って帰るまでと妻が結んでくれた紐の緒が切れてしまったという歌、妻が偲ぶよすがにせよと結んでくれた紐は、糸になっても解くまいという歌、わが家へ行く人がいればよい、旅は苦しいと告げてやりたいという歌、碓氷の坂を越えただけでも妻が恋しく忘れられないという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞(上野國の防人の歌)
- 1難波難波なにわ道道じををを奈爾波治乎4404 上毛野牛甘
- 2往往ゆきききててて來來くまでまでまでととと由伎弖久麻弖等
- 3吾妹子吾妹子わぎもこががが和藝毛古賀
- 4著著つけけけししし紐紐ひもががが緒緒お都氣之非毛我乎
- 5絶絶たえええにににけるけるけるかもかもかも多延爾氣流可母
- 6我我わががが妹子妹子いもこががが和我伊母古我4405 朝倉益人
- 7しぬびしぬびしぬびにににせせせよよよととと志濃比爾西餘等
- 8著著つけけけししし紐紐ひも都氣志比毛
- 9糸糸いとににになるなるなるともともとも伊刀爾奈流等母
- 10我我わははは解解とかかかじじじとよとよとよ和波等可自等余
- 11我我わががが家家いわろろろににに和我伊波呂爾4406 大伴部節麻呂
- 12行行ゆかかかももも人人ひともがもがもが由加毛比等母我
- 13草草くさ枕枕まくら久佐麻久良
- 14旅旅たびははは苦苦くるしししととと多妣波久流之等
- 15告告つげげげ遣遣やらららまくまくまくももも都氣夜良麻久母
- 16ひなぐもりひなぐもりひなぐもり比奈久母理4407 他田部子磐前
- 17碓日碓日うすいののの坂坂さかををを宇須比乃佐可乎
- 18越越こえええしだしだしだににに古延志太爾
- 19妹妹いもががが戀戀こいしくしくしく伊毛賀古比之久
- 20忘忘わすらららえええぬぬぬかもかもかも和須良延奴可母
現代語訳
〔4404〕難波への道を往って帰って来るまでと、妻が結んでくれた紐の緒が、切れてしまったことだ。
〔4405〕私の妻が、偲ぶよすがにせよと結んでくれた紐は、たとえ糸のようにすり切れても、私は解くまいよ。
〔4406〕わが家の方へ行く人がいればよいのに。(草枕)旅は苦しいと告げてやりたいものだ。
〔4407〕(ひなぐもり)碓氷の坂を越えた時にさえ、妻が恋しくて、忘れられないことだ。
意訳
上野国の防人たちの歌である。妻が結んでくれた紐に寄せて再会を誓い、旅の苦しさを家に伝えたい思い、国境の碓氷峠を越えた時からの妻への恋しさを詠む。
語釈・文法注
文法・本文
- 難波道
- 「なにはぢ」。難波への道。
- 紐が緒
- 紐の緒。妻が結んだ紐は再会まで解かない約束のしるし。
- とよ
- 強い意志を表す。
- 家ろ
- 「いはろ」。「いへ」の東国語形。
- 行かも人
- 「ゆかもひと」。行く人。東国語形。
- ひなぐもり
- 「碓日」にかかる枕詞。
- 碓日の坂
- 「うすひのさか」。上野と信濃の境の碓氷峠。
- 越えしだ
- 越えた時。「しだ」は時の東国語。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第二十・部立なし・4404〜4407番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 天平勝宝7年2月、上野国の防人たちが詠み、防人部領使が進上した歌。
修辞
- 東国方言
- 「いはろ」「ゆかも」「しだ」など、東国の言葉を交える。
解説
上野国は今の群馬県。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、734頁(コマ160)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、865頁(コマ196)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日