万葉集 巻第二十 4401〜4403番
韓衣 裾に取りつき
天平勝宝7年2月、信濃国の防人たちの歌三首。韓衣の裾に取りすがって泣く子どもたちを置いて来てしまった、母もいないのにという歌、神の御坂に幣を捧げて無事を祈る命は母父のためだという歌、大君の命令を恐れ謹んで、青雲のたなびく山を越えて来たのだという歌。
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題詞(信濃國の防人の歌)
- 1韓韓から衣衣ころも可良己呂茂4401 他田舎人大島
- 2裾裾すそににに取取とりりりつきつきつき須曾爾等里都伎
- 3泣泣なくくく子子こらららををを奈苦古良乎
- 4置置おきききてててぞぞぞ來來きぬぬぬややや意伎弖曾伎怒也
- 5母母おもなしなしなしにににしししててて意母奈之爾志弖
- 6ちはやぶるちはやぶるちはやぶる知波夜布留4402 神人部子忍男
- 7神神かみののの御御み坂坂さかににに賀美乃美佐賀爾
- 8幣幣ぬさ奉奉まつりりり怒佐麻都里
- 9齋齋いわふふういのちいのちいのちははは伊波負伊能知波
- 10母父母父おもちちががが爲爲ため意毛知知我多米
- 11大君大君おおきみののの意保伎美乃4403 小長谷部笠麻呂
- 12命命みことかしこみかしこみかしこみ美己等可之古美
- 13青青あお雲雲くむののの阿乎久牟乃
- 14棚棚との引引びくくく山山やまををを等能妣久夜麻乎
- 15越越こよよよててて來來きぬぬぬかむかむかむ古與弖伎怒加牟
現代語訳
〔4401〕韓衣の裾に取りすがって泣く子どもたちを、置いて来てしまったなあ。母もいないのに。
〔4402〕(ちはやぶる)神の御坂に幣を捧げて、無事を祈るこの命は、母や父のためである。
〔4403〕大君のご命令を恐れ謹んで、青雲のたなびく山を越えて来たのだなあ。
意訳
信濃国の防人たちの歌である。母のいない幼い子を残して来た父の悲しみ、神坂峠で父母のために命の無事を祈る心、青雲のたなびく山を越えてきた感慨を詠む。
語釈・文法注
文法・本文
- 韓衣
- 「からころも」。大陸風の衣。
- 母なしにして
- 母もいないのに。子の母がすでに亡いことを言う。
- 神の御坂
- 信濃と美濃の境の神坂峠。
- 母父
- 「おもちち」。東国語。
- 青雲
- 「あをくむ」。「あをくも」の東国語形。
- 棚引く
- 「とのびく」。「たなびく」の東国語形。
- 越よて
- 「こよて」。「こえて」の東国語形。
- 來ぬかむ
- 来たのだなあ。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第二十・部立なし・4401〜4403番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 天平勝宝7年2月、信濃国の防人たちが詠み、防人部領使が進上した歌。
修辞
- 東国方言
- 「くむ」「とのびく」「こよて」など、東国の言葉を交える。
解説
4401番は、母のない子を残して出征する父の歌として、防人歌の中でもとりわけ哀切である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、734頁(コマ160)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、865頁(コマ196)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日