古典ライブラリー

万葉集 巻第二十 4295〜4297番

高圓の 尾花吹き越す

作者未詳

天平勝宝5年8月12日、二、三人の官人がそれぞれ壺に酒を提げて高円の野に登り、思いを述べて詠んだ歌三首。高円の尾花を吹き越す秋風に、紐を解いて胸を開こう、じかに逢うのではなくてもという大伴池主の歌、天雲の中に雁が鳴いている、高円の萩の下葉は紅葉しきれるだろうかという中臣清麻呂の歌、女郎花や秋萩を踏み分けて牡鹿が露を分けて鳴くだろう高円の野よという大伴家持の歌。

尾花と萩の咲く高円の野に、酒を提げて登る官人たち

題詞八月十二日、二三の大夫等、各壺酒を提げて高圓野に登り、聊か所心を述べて作れる歌三首

  1. 1高圓たかまと高圓たかまとたかまとののの多可麻刀能4295 池主
  2. 2尾花をばな尾花をばなおばな吹ふ吹ふふききき越こ越ここすすす乎婆奈布伎故酒
  3. 3秋あき秋あきあき風かぜ風かぜかぜににに秋風爾
  4. 4紐ひも紐ひもひも解と解ととききき開あ開ああけけけななな比毛等伎安氣奈
  5. 5直ただ直ただただならならならずずずともともとも多太奈良受等母
  6. 6天あま天あまあま雲くも雲くもくもににに安麻久母爾4296 清麻呂
  7. 7雁かり雁かりかりぞぞぞ鳴な鳴ななくくくなるなるなる可里曾奈久奈流
  8. 8高圓たかまと高圓たかまとたかまとののの多加麻刀能
  9. 9萩はぎ萩はぎはぎののの下した下したした葉ば葉ばばははは波疑乃之多婆波
  10. 10もみぢもみぢもみじ敢あ敢ああへへえむむんかもかもかも毛美知安倍牟可聞
  11. 11をみなへしをみなへしおみなえし乎美奈弊之4297 家持
  12. 12秋あき秋あきあき萩はぎ萩はぎはぎ凌しぬ凌しぬしぬぎぎぎ安伎波疑之努藝
  13. 13さささををを鹿しか鹿しかしかののの左乎之可能
  14. 14露つゆ露つゆつゆ分わ分わわけけけ鳴な鳴ななかかかむむん都由和氣奈加牟
  15. 15高圓たかまと高圓たかまとたかまとののの野の野ののぞぞぞ多加麻刀能野曾

引用の仕方

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現代語訳

〔4295〕高円の尾花を吹き越していく秋風に、着物の紐を解いて胸を開こう。直接に逢うのではなくても。

〔4296〕天雲の中で雁が鳴いている。高円の萩の下葉は、すっかり紅葉しきれるだろうか。

〔4297〕女郎花や秋萩を踏み分けて、牡鹿が露を分けて鳴くだろう、高円の野であるよ。

意訳

秋の高円の野に親しい官人たちが酒を提げて登り、秋風に胸を開き、雁の声に萩の紅葉を思い、鹿の鳴く野の風情を讃えた、のびやかな秋の遊びの歌である。

語釈・文法注

文法・本文

高圓
「たかまと」。奈良の高円山のふもとの野。
紐解き開けな
着物の紐を解いてくつろごう。
直ならずとも
直接でなくても。
もみぢ敢へむ
すっかり紅葉しきれるだろうか。
凌ぎ
「しぬぎ」。押し分けて。

和歌

作者
作者未詳
出典
『万葉集』巻第二十・部立なし・4295〜4297番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
状況
天平勝宝5年8月12日、官人たちが高円の野に登って詠んだ歌。

修辞

秋の景物
尾花・雁・萩・女郎花・鹿を詠み込む。

解説

越中で親しかった家持と池主が、都で再び共に遊んでいる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、717頁(コマ151)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、843頁(コマ185)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日