万葉集 巻第十九 4273〜4278番
天地と 相榮えむと
天平勝宝4年11月25日、新嘗会の宴で詔に応えて詠まれた歌六首。天地とともに栄えようと大宮にお仕えするので尊くうれしいという巨勢奈弖麻呂の歌、天には五百の綱を張りめぐらす、万代に国を治めようとという石川年足の歌、天地とともに久しく万代までお仕えしよう、黒酒白酒をという文屋智努の歌、島山に照る橘を髪に挿して仕えるのは公卿や大夫たちだという藤原八束の歌、袖を垂れてさあわが庭に、鶯が木を伝って散らす梅の花を見にという藤原永手の歌、日蔭のかずらをかけた上に、さらに梅を賞美しようかという大伴家持の歌(奏上しなかった)。
場面イラスト(準備中)
題詞二十五日、新嘗會の肆宴に、詔に應ずる歌六首
- 1天地天地あめつちととと天地與4273 巨勢奈弖麻呂
- 2相相あい榮榮さかえええむむんととと相左可延牟等
- 3大宮大宮おおみやををを大宮乎
- 4仕仕つかへへえまつれまつれまつればばば都可倍麻都禮婆
- 5貴貴とうとくくくうれしきうれしきうれしき貴久宇禮之伎
- 6天天あめにににはははももも天爾波母4274 石川年足
- 7五百五百いおつつつ綱綱つな延延はふふう五百都綱波布
- 8萬代萬代よろずよににに萬代爾
- 9國國くに知知しらさらさらさむむんととと國所知牟等
- 10五百五百いおつつつ綱綱つな延延はふふう五百都々奈波布
- 11天地天地あめつちととと天地與4275 文屋智努
- 12久久ひさしきしきしきまでまでまでににに久萬氐爾
- 13萬代萬代よろずよににに萬代爾
- 14仕仕つかへへえまつらまつらまつらむむん都可倍麻都良牟
- 15黑酒黑酒くろき白酒白酒しろきををを黑酒白酒乎
- 16島島しま山山やまににに島山爾4276 藤原八束
- 17照照てれれれるるる橘橘たちばな照在橘
- 18髻華髻華うずににに挿挿さししし宇受爾左之
- 19仕仕つかへへえまつるまつるまつるははは仕奉者
- 20卿大夫等卿大夫等まえつぎみたち卿大夫等
- 21袖袖そで垂垂たれれれててて袖垂而4277 藤原永手
- 22いざいざいざ吾吾わががが苑苑そのににに伊射吾苑爾
- 23うぐひすうぐひすうぐいすののの鶯乃
- 24木木こ傳傳づたひひい散散ちらすらすらす木傳令落
- 25梅梅うめののの花花はな見見みににに梅花見爾
- 26あしひきあしひきあしひきののの足日木乃4278 家持
- 27山山やま下下した日蔭日蔭ひかげ夜麻之多日影
- 28蘰蘰かずらけけけるるる可豆良家流
- 29上上うえにににややや更更さらににに宇倍爾也左良爾
- 30梅梅うめををを賞賞しぬばばばむむん梅乎之奴波牟
現代語訳
〔4273〕天地とともに栄えようと、大宮にお仕え申し上げるので、尊くうれしいことだ。
〔4274〕天には五百の綱を張りめぐらしている。万代に国をお治めになろうと、五百の綱を張りめぐらしている。
〔4275〕天地とともに久しく、万代までもお仕え申し上げよう。この黒酒白酒を。
〔4276〕庭の築山に照り映える橘を髪飾りに挿して、お仕え申し上げるのは公卿や大夫たちである。
〔4277〕袖を垂れてくつろいで、さあわが庭に。鶯が木を伝って散らす梅の花を見に。
〔4278〕(あしひきの)山の下の日蔭のかずらを髪にかけた上に、さらに梅を賞美しようというのか。
意訳
新嘗祭の後の宴で、詔に応えて官人たちが詠んだ歌である。新嘗殿の綱、黒酒白酒、橘のうず、日蔭のかずらなど、祭りの品々を詠み込んで、皇統の永遠と宴の喜びを讃える。家持の歌は奏上されなかった。
語釈・文法注
文法・本文
- 五百つ綱
- 「いほつつな」。多くの綱。新嘗の殿舎に張る綱か。
- 黑酒白酒
- 「くろきしろき」。新嘗祭に供える酒。
- 髻華
- 「うず」。髪に挿す飾り。
- 卿大夫
- 「まへつぎみたち」。公卿や大夫たち。
- 袖垂れて
- 袖を垂れてくつろいで。
- 山下日蔭
- 山の下に生える日蔭のかずら。新嘗の儀式で髪に飾った。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十九・部立なし・4273〜4278番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 天平勝宝4年11月25日、新嘗会の宴で詔に応えて詠まれた歌。
修辞
- ことほぎ
- 祭りの品々に寄せて御代を祝う。
解説
新嘗祭は、天皇がその年の新穀を神に供え、自らも食する祭り。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、704頁(コマ145)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、831頁(コマ179)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日