万葉集 巻第十九 4257〜4259番
手束弓 手に取り持ちて
天平勝宝3年10月22日、左大弁紀飯麻呂の家での宴の歌三首。手束弓を手に取り持って、朝の狩りに君はお立ちになった、棚倉の野にという久邇京の時の歌を船王が伝え誦んだもの、明日香川の川の渡り場が清らかなので、あとに残って恋い慕っていると都はいよいよ遠ざかったという古京の時の歌を中臣清麻呂が伝え誦んだもの、十月の時雨の常か、あなたの家の紅葉は散りそうに見えるという家持の歌。
場面イラスト(準備中)
題詞十月二十二日、左大辨紀飯麻呂朝臣の家にて宴せる歌三首
- 1手束手束たつか弓弓ゆみ手束弓4257 古歌
- 2手手てににに取取とりりり持持もちちちててて手爾取持而
- 3朝朝あさ獵獵がりににに朝獵爾
- 4君君きみははは立立たたしたしたしぬぬぬ君者立之奴
- 5棚倉棚倉たなくらののの野野のににに多奈久良能野爾
- 6明日香明日香あすか河河がわ明日香河4258 古歌
- 7河河かわ戶戶とををを清清きよみみみ河戸乎清美
- 8後後おくれれれ居居いててて後居而
- 9戀戀こふれふれうればばば京京みやこ戀者京
- 10いやいやいや遠遠とお離離そきききぬぬぬ彌遠曾伎奴
- 11十月十月かんなづき十月4259 家持
- 12時雨時雨しぐれののの常常つねかかか之具禮能常可
- 13吾吾わががが兄子兄子せこががが吾世古河
- 14屋戸屋戸やどのののもみぢもみぢもみじ葉葉ば屋戸乃黃葉
- 15ちりちりちりぬぬぬべしべしべし見見みゆゆゆ可落所見
現代語訳
〔4257〕手束弓を手に取り持って、朝の狩りにわが君はお立ちになった。棚倉の野に。
〔4258〕明日香川の川の渡り場が清らかなので、あとに残って恋い慕っていると、都はいよいよ遠く離れてしまった。
〔4259〕十月の時雨のいつものことか、あなたの家の紅葉は、散ってしまいそうに見える。
意訳
紀飯麻呂邸での宴で、客人たちが旧都にまつわる古歌を披露し、家持は邸の梨の紅葉を詠んで時雨の季節の風情を添えた。
語釈・文法注
文法・本文
- 手束弓
- 「たつかゆみ」。手に握る部分のある弓。
- 棚倉の野
- 山城の地名。久邇京の近く。
- 河戶
- 「かはと」。川の渡り場。
- 遠離きぬ
- 「とほそきぬ」。遠く離れてしまった。
- 十月
- 「かみなづき」。陰暦十月。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十九・部立なし・4257〜4259番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 天平勝宝3年10月22日、左大弁紀飯麻呂の家での宴の歌。
修辞
- 懐古
- 旧都の歌を誦して昔をしのぶ。
解説
久邇京は天平12年から16年まで都とされた。古京は藤原京以前の飛鳥の都。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、700頁(コマ143)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、826頁(コマ177)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日