万葉集 巻第十九 4209〜4210番
谷近く 家は居れども
天平勝宝2年4月23日、越中掾久米広縄が、家持の恨みの歌に答えた長歌と反歌。谷の近くに家を構えて住み、木が高く茂る里にいるけれども、ほととぎすはまだ来て鳴かない、鳴く声を聞きたいと朝には門に出て立ち夕べには谷を見渡して恋い慕っているが、ひと声さえまだ聞こえないと詠む長歌と、藤の花の盛りは過ぎてしまった、山ほととぎすはどうして来て鳴かないのかという歌。
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題詞霍公鳥を詠める歌一首并に短歌
- 1谷谷たに近近ちかくくく家家いえははは居居おれれれどもどもども多爾知可久 伊敝波乎禮騰母長歌
- 2木木こ高高だかくくくててて里里さとはははあれあれあれどもどもども許太加久氐 佐刀波安禮騰母
- 3ほととぎすほととぎすほととぎす未未いまだだだ來來き鳴鳴なかかかずずず保登等藝須 伊麻太伎奈加受
- 4鳴鳴なくくく聲聲こえををを聞聞きかかかまくまくまく欲欲ほりりりととと奈久許惠乎 伎可麻久保理登
- 5朝朝あしたにににははは門門かどににに出出いででで立立たちちち安志多爾波 可度爾伊氐多知
- 6夕夕ゆうべにににははは谷谷たにををを見見み渡渡わたししし由布敝爾波 多爾乎美和多之
- 7戀戀こふれふれうれどもどもども一一ひと聲聲こえだにだにだにももも未未いまだだだ聞聞きこえええずずず古布禮騰毛 比等己惠太爾母 伊麻太伎己要受
- 8藤浪藤浪ふじなみののの敷治奈美乃反歌
- 9繁繁しげりりりははは過過すぎぎぎぬぬぬ志氣里波須疑奴
- 10あしひきあしひきあしひきののの安志比紀乃
- 11山山やまほととぎすほととぎすほととぎす夜麻保登等藝須
- 12何何などどどかかか來來き鳴鳴なかかかぬぬぬ奈騰可伎奈賀奴
現代語訳
〔4209〕谷の近くに家を構えて住んでいるけれども、木が高く茂る里にはいるけれども、ほととぎすはまだ来て鳴かない。鳴く声を聞きたいと、朝には門に出て立ち、夕べには谷を見渡して恋い慕っているけれども、ひと声さえもまだ聞こえない。
〔4210〕藤の花の盛りは過ぎてしまった。(あしひきの)山ほととぎすは、どうして来て鳴かないのか。
意訳
家持の恨みの歌に、自分もまだほととぎすの声を聞いていないと弁明した歌である。朝夕に待ちわびているのに声さえ聞けないと答え、ほととぎすの遅さを共に嘆く。
語釈・文法注
文法・本文
- 木高くて
- 木が高く茂っていて。
- 聞かまく欲りと
- 聞きたいと思って。
- 何どか
- 「などか」。どうして。
和歌
- 作者
- 久米広縄(生没年未詳(八世紀中頃))
越中掾として国守の大伴家持に仕え、大伴池主のあとを受けて家持と歌を交わした。巻十八・十九に歌が多い。 - 出典
- 『万葉集』巻第十九・部立なし・4209〜4210番
- 歌体
- 長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 天平勝宝2年4月23日、越中掾久米広縄が家持に答えた歌。
修辞
- 対句
- 「朝には門に出で立ち」と「夕には谷を見渡し」。
解説
家持の4207番の表現(谷・藤)を受けて答えている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、689頁(コマ137)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、814頁(コマ171)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日