万葉集 巻第十八 4086〜4088番
あぶら火の 光に見ゆる
天平感宝元年5月9日、越中少目秦石竹の館での宴で、主人が百合の花の髪飾りを作って客に贈ったとき、それを詠んだ歌三首。灯火の光に見える私の髪飾りの百合の花の、ほほえましいことよという家持の歌、灯火の光に見える百合の花のように、後にも逢おうと思い始めたという内蔵縄麻呂の歌、後にも逢おうと思うからこそ、今この時もいとしく思うのだという家持の歌。
場面イラスト(準備中)
題詞同じ月九日、諸僚、少目秦伊美吉石竹の館に會ひて飲宴す。時に主人、百合の花縵三枚を造り、豆器に疊ね置きて、賓客に捧げ贈る。各此の縵を賦して作れる三首
- 1あぶらあぶらあぶら火火ひののの安夫良火能4086 家持
- 2光光ひかりににに見見みゆるゆるゆる比可里爾見由流
- 3我我わががが縵縵かずら和我可豆良
- 4さささ百合百合ゆりののの花花はなののの佐由利能波奈能
- 5笑笑えまはしきまはしきまわしきかもかもかも惠麻波之伎香母
- 6燈火燈火ともしびののの等毛之火能4087 縄麻呂
- 7光光ひかりににに見見みゆるゆるゆる比可里爾見由流
- 8さささ百合百合ゆり花花ばな佐由理婆奈
- 9後後ゆりももも逢逢あははわむむんととと由利毛安波牟等
- 10思思おもひひい初初そめめめてててききき於母比曾米弖伎
- 11さささ百合百合ゆり花花ばな左由理波奈4088 家持
- 12後後ゆりももも逢逢あははわむむんととと由利毛安波牟等
- 13思思おもへへえこそこそこそ於毛倍許曾
- 14今今いまのののまさかまさかまさかももも伊末能麻左可母
- 15愛愛うるわしみしみしみすれすれすれ宇流波之美須禮
現代語訳
〔4086〕灯火の光に見える私の髪飾りの百合の花の、なんとほほえましいことか。
〔4087〕灯火の光に見える百合の花の名のように、後(ゆり)にもまた逢おうと思い始めたことだ。
〔4088〕百合の花の名のように、後(ゆり)にもまた逢おうと思うからこそ、今この時もいとしく思うのだ。
意訳
宴の主人が客に贈った百合の髪飾りを詠んだ歌である。灯火に照らされた百合のほほえむような美しさを讃え、「ゆり」に「後(ゆり)」を掛けて、これから先もまた逢おうと、宴の仲間との交わりの永続を願う。
語釈・文法注
文法・本文
- あぶら火
- 油をともした灯火。
- 縵
- 「かづら」。髪飾り。
- 笑まはしき
- 「ゑまはしき」。ほほえましい。
- 後
- 「ゆり」。後に。百合の「ゆり」を掛ける。
- 今のまさか
- 今この時。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十八・部立なし・4086〜4088番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 天平感宝元年5月9日、越中少目秦石竹の館での宴の歌。
修辞
- 掛詞
- 「百合(ゆり)」と「後(ゆり)」。
- 序詞
- 4087・4088番の「さ百合花」が「後(ゆり)」を導く。
解説
豆器は、食物を盛る脚付きの器。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、654頁(コマ120)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、771頁(コマ149)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日