万葉集 巻第十八 4066〜4069番
卯の花の 咲く月立ちぬ
天平20年4月1日、越中掾久米広縄の館での宴の歌四首。卯の花の咲く月になった、ほととぎすよ来て鳴き響かせよ、まだ花はつぼみであってもという家持の歌、二上山にこもっているほととぎすよ、今鳴かないか、あなたに聞かせようという遊行女婦土師の歌、夜を明かしても今夜は飲もう、明朝はほととぎすが鳴き渡るだろうという家持の歌、明日からは続けて聞こえるだろうほととぎすを、今夜一夜のために恋い慕うという能登乙美の歌。
場面イラスト(準備中)
題詞四月一日、掾久米朝臣廣繩の館にて宴せる歌四首
- 1卯卯うののの花花はなののの宇能花能4066 家持
- 2咲咲さくくく月月つき立立たちちちぬぬぬ佐久都奇多知奴
- 3ほととぎすほととぎすほととぎす保等登藝須
- 4來來き鳴鳴なききき響響とよめめめよよよ伎奈吉等與米余
- 5含含ふふみみみたりたりたりともともとも敷布美多里登母
- 6二上二上ふたがみののの敷多我美能4067 土師
- 7山山やまにににこもれこもれこもれるるる夜麻爾許母禮流
- 8ほととぎすほととぎすほととぎす保等登藝須
- 9今今いまももも鳴鳴なかかかぬぬぬかかか伊麻母奈加奴香
- 10君君きみににに聞聞きかかかせせせむむん伎美爾妓可勢牟
- 11居居おりりり明明あかしししももも乎里安加之母4068 家持
- 12今宵今宵こよいははは飮飮のまままむむん許余比波能麻牟
- 13ほととぎすほととぎすほととぎす保登等藝須
- 14明明あけけけむむんあしたあしたあしたははは安氣牟安之多波
- 15鳴鳴なききき渡渡わたらららむむんぞぞぞ奈伎和多良牟曾
- 16明日明日あすよりよりよりははは安須余里波4069 乙美
- 17繼繼つぎぎぎててて聞聞きこえええむむん都藝弖伎許要牟
- 18ほととぎすほととぎすほととぎす保登等藝須
- 19一一ひと夜夜よののの故故からににに比登欲能可良爾
- 20戀戀こひひい渡渡わたるるるかもかもかも古非和多流加母
現代語訳
〔4066〕卯の花の咲く月になった。ほととぎすよ、来て鳴き響かせよ。卯の花はまだつぼみであっても。
〔4067〕二上山にこもっているほととぎすよ、今も鳴かないか。あなたにお聞かせしたい。
〔4068〕夜を明かしてでも今夜は飲もう。ほととぎすは、夜が明けた朝には鳴き渡るだろうから。
〔4069〕明日からは続けて聞こえるだろうほととぎすなのに、今夜一夜のために、恋い慕い続けることだ。
意訳
四月一日、夏の始まりの宴で、ほととぎすの初音を待ちわびて詠んだ歌である。翌二日が立夏であるので、家持は夜通し飲んで明朝の初音を待とうと言い、能登乙美は、明日から聞ける声を今夜一夜のために待ち焦がれると詠む。
語釈・文法注
文法・本文
- 月立ちぬ
- 月が改まった。
- 含みたりとも
- 「ふふみたりとも」。つぼみのままであっても。
- 居り明しも
- 「をりあかしも」。起きたまま夜を明かしても。
- 一夜の故に
- 一夜のために。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十八・部立なし・4066〜4069番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 天平20年4月1日、越中掾久米広縄の館での宴の歌。
修辞
- 呼びかけ
- 4066・4067番は、ほととぎすに呼びかける。
解説
能登乙美は、羽咋郡の擬主帳(郡の書記の見習い)であると左注にある。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、650頁(コマ118)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、766頁(コマ147)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日