万葉集 巻第十七 3995〜3998番
玉ほこの 道に出で立ち
天平19年4月26日、正税帳使として上京する大伴家持を、大伴池主が館で送別した宴の歌四首。旅に出て別れたら逢えない日が重なって恋しく思うだろうという家持の歌、あなたが都へ行ったらほととぎすの鳴く五月は寂しいだろうという内蔵繩麻呂の歌、私がいないと嘆かないで、ほととぎすの鳴く五月には薬玉を通しなさいと答えた家持の歌、池主が伝え誦んだ石川水通の、待っていては苦しいので花橘を花ごと玉に通すという古歌。
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題詞四月二十六日、掾大伴宿禰池主の館にて、税帳使守大伴宿禰家持を餞する宴の歌、并に古歌四首
- 1玉玉たまほこほこほこののの多麻保許乃3995 家持
- 2道道みちににに出出いででで立立たちちち美知爾伊泥多知
- 3別別わかれれれなななばばば和可禮奈婆
- 4見見みぬぬぬ日日ひさささ數多數多まねみみみ見奴日佐麻禰美
- 5戀戀こいしけしけしけむむんかもかもかも孤悲思家武可母
- 6我我わががが兄子兄子せこががが和我勢古我3996 繩麻呂
- 7國國くにへへえましましましなななばばば久爾弊麻之奈婆
- 8ほととぎすほととぎすほととぎす保等登藝須
- 9鳴鳴なかかかむむん五月五月さつきははは奈可牟佐都奇波
- 10不樂不樂さぶしけしけしけむむんかもかもかも佐夫之家牟可母
- 11吾吾あれなしなしなしととと安禮奈之等3997 家持
- 12ななな侘侘わびびび我我わががが兄子兄子せこ奈和備和我勢故
- 13ほととぎすほととぎすほととぎす保登等藝須
- 14鳴鳴なかかかむむん五月五月さつきははは奈可牟佐都奇波
- 15玉玉たまををを貫貫ぬかかかさささねねね多麻乎奴香佐禰
- 16我我わががが宿宿やどののの和我夜度能3998 水通
- 17花花はな橘橘たちばなををを花橘乎
- 18花花はなごめごめごめににに波奈其米爾
- 19玉玉たまにににぞぞぞ吾吾あががが貫貫ぬくくく多麻爾曾安我奴久
- 20待待またたたばばば苦苦くるしみしみしみ麻多婆苦流之美
現代語訳
〔3995〕(玉ほこの)旅の道に出て別れたならば、逢えない日が重なって、恋しく思うことだろうか。
〔3996〕あなたが都へ行ってしまわれたら、ほととぎすの鳴く五月は、寂しいことでしょうか。
〔3997〕私がいないからと嘆かないでください、わが友よ。ほととぎすの鳴く五月には、薬玉を通しなさい。
〔3998〕わが家の庭の花橘を、花ごと玉にして私は通す。実るのを待っていては苦しいので。
意訳
上京する家持を送る宴での贈答である。家持が別れの後の恋しさを詠むと、内蔵繩麻呂が、あなたのいない五月は寂しいと応じ、家持は、私がいなくても五月には薬玉を通して楽しみなさいと答える。最後に主人の池主が、待ちきれずに花橘を花ごと玉に通すという古歌を誦んで、宴を結ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 見ぬ日さ數多み
- 「みぬひさまねみ」。逢えない日が重なるので。「さ」は接頭語。
- 國へましなば
- 都へ行かれたならば。「國」は故郷の大和。
- 不樂しけむ
- 「さぶしけむ」。寂しいだろう。
- な侘び
- 嘆かないで。
- 玉を貫かさね
- 薬玉を通しなさい。
- 花ごめに
- 花ごと。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十七・部立なし・3995〜3998番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 天平19年4月26日、大伴池主の館で、正税帳使として上京する大伴家持を送る宴の歌。
修辞
- 贈答
- 3996番の「ほととぎす鳴かむ五月は」を、3997番がそのまま受けて答える。
解説
五月五日には、橘の花や菖蒲を糸に通して薬玉を作る風習があった。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、631頁(コマ108)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、740頁(コマ134)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日