万葉集 巻第十七 3922〜3925番
降る雪の 白髮までに
天平18年(746)正月、大雪の日に左大臣橘諸兄らが元正太上天皇の御所で雪かきに奉仕し、詔によって雪を題に詠んだ歌のうち四首。降る雪のような白髪になるまで大君に仕えるのは貴いという橘諸兄の歌、天の下を覆って降る雪の光を見ると貴いという紀清人の歌、山の峡も見えないほど一昨日も昨日も今日も雪が降るという紀男梶の歌、新年の初めに豊年のしるしとして雪が降るらしいという葛井諸会の歌。
場面イラスト(準備中)
題詞十八年正月、白雪多く零りて地に積むこと數寸なり。時に左大臣橘卿、大納言藤原豐成朝臣及び諸王臣等を率て、太上天皇の御在所(中宮西院)に參入りて、供奉して、雪を掃ふ。ここに詔を降して、……聊か此の雪を賦して各其の歌を奏せよと
- 1降降ふるるる雪雪ゆきののの布流由吉乃3922 橘諸兄
- 2白白しろ髮髮かみまでまでまでににに之路髮麻泥爾
- 3大皇大皇おおきみににに大皇爾
- 4仕仕つかへへえまつれまつれまつればばば都可倍麻都禮婆
- 5貴貴とうとくくくもももあるあるあるかかか貴久母安流香
- 6天天あめののの下下した天下3923 紀清人
- 7すでにすでにすでに覆覆おおひひいててて須泥爾於保比氐
- 8降降ふるるる雪雪ゆきののの布流雪乃
- 9光光ひかりををを見見みれれればばば比加里乎見禮婆
- 10たふとくたふとくとうとくもももあるあるあるかかか多敷刀久母安流香
- 11山山やまののの峽峽かい山乃可比3924 紀男梶
- 12そこそこそことととももも見見みえええずずず曾許登母見延受
- 13一昨日一昨日おとついももも乎登都日毛
- 14昨日昨日きのうももも今日今日きょうももも昨日毛今日毛
- 15雪雪ゆきののの降降ふれれれれれればばば由吉能布禮禮婆
- 16新新あらたしきしきしき新3925 葛井諸會
- 17年年としのののはじめはじめはじめににに年乃婆自米爾
- 18豐豐とよののの年年とし豐乃登之
- 19しるすしるすしるすとととならならならししし思流須登奈良思
- 20雪雪ゆきののの降降ふれれれるるるははは雪能敷禮流波
現代語訳
〔3922〕降る雪のような白髪になるまで、大君にお仕え申し上げるのは、貴いことであるよ。
〔3923〕天の下をすっかり覆って降る雪の光を見ると、貴いことであるよ。
〔3924〕山の峡がどこともわからないほどに、一昨日も昨日も今日も、雪が降っているので。
〔3925〕新しい年の初めに、豊年のしるしとするのであるらしい。雪が降っているのは。
意訳
天平18年正月、大雪の日に元正太上天皇の御所で雪かきをした官人たちが、詔に応じて雪を題に詠んだ歌である。白髪になるまで仕える喜び、天下を覆う雪の光の尊さ、何日も降り続く雪、豊年の前兆としての雪を詠み、太上天皇の長寿と治世をたたえる。
語釈・文法注
文法・本文
- 白髮までに
- 白髪になるまで。降る雪を白髪に重ねる。
- 山の峽
- 「やまのかひ」。山と山の間。
- 一昨日
- 「をとつひ」。おととい。
- 豐の年しるす
- 豊年の前兆を示す。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十七・部立なし・3922〜3925番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 天平18年正月、元正太上天皇の御所で、詔に応じて官人たちが詠んだ歌。
修辞
- 寿歌
- 雪にちなんで君の長寿と豊年を祝う。
解説
このあと大伴家持(3926番)らの応詔歌が続く。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、613頁(コマ99)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、718頁(コマ123)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日