万葉集 巻第十六 3887〜3889番
天なるや 神樂良の小野に
恐ろしいものを詠んだ歌三首で、巻第十六の終わり。神楽良の小野で茅を刈っていると、刈るそばから鶉が飛び立って驚かされるという歌、沖の国を治める君の染屋形、黄染めの屋形が神の門を渡って行くという歌、人魂の青い君にただ一人逢った雨の夜は、いつまでも思い出されるという歌。
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題詞怕物の歌三首
- 1天天あめなるなるなるややや天爾有哉3887
- 2神樂良神樂良ささらののの小小お野野ぬににに神樂良能小野爾
- 3茅草茅草ちがや苅苅かりりり茅草苅
- 4草草かや苅苅かりりりばかりばかりばかりににに草苅婆可爾
- 5鶉鶉うずらををを立立たつつつももも鶉乎立毛
- 6奧奧おきつつつ國國くに奧國3888
- 7領領うしはくくく君君きみががが領君之
- 8染染しめ屋形屋形やかた染屋形
- 9黃黃き染染じめののの屋形屋形やかた黃染乃屋形
- 10神神かみののの門門と渡渡わたるるる神之門渡
- 11人人ひと魂魂だまののの人魂乃3889
- 12さささ靑靑おなるなるなる君君きみががが佐靑有公之
- 13ただただただ獨獨ひとり但獨
- 14逢逢あへへえりりりししし雨雨あま夜夜よははは相有之雨夜葉
- 15久久ひさしくしくしく念念おもほほおゆゆゆ非左思久所念
現代語訳
〔3887〕天にある神楽良の小野で茅草を刈り、草を刈っていると、そのそばから鶉が飛び立って驚かされることだ。
〔3888〕沖の国を治める君の染めた屋形、黄に染めた屋形の船が、神の海峡を渡って行く。
〔3889〕人魂の青白い君に、ただ一人で逢った雨の夜のことは、いつまでも思い出されることだ。
意訳
恐ろしいものを詠んだ三首で、巻第十六を結ぶ。草を刈ると急に飛び立つ鶉に驚く歌、死者の国である沖の国の主の黄色い屋形船が神の海峡を渡って行く歌、雨の夜に青白い人魂に出会った恐ろしさがいつまでも忘れられないという歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 神樂良
- 「ささら」。天上の地名、月の世界とも。
- 鶉を立つも
- 鶉を飛び立たせることよ。
- 奧つ國
- 「おきつくに」。沖の国、死者の国。
- 領く
- 「うしはく」。治める、支配する。
- 染屋形
- 「しめやかた」。色を染めた屋形船。黄泉の国の船か。
- 人魂
- 「ひとだま」。死者の魂が青白い火となって飛ぶもの。
- さ靑なる
- 「さをなる」。青白い。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十六・雑歌・3887〜3889番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 作者未詳の怕物(おそろしきもの)の歌。
修辞
- 題詠
- 恐ろしいものを題として詠む。
解説
3889番は、人魂を詠んだ最古の例とされる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、602頁(コマ94)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、706頁(コマ117)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日