万葉集 巻第十六 3880番
加島嶺の 机の島の
能登国の歌謡。机の島の小さな巻貝を拾って来て、石でつついて割り、早瀬で洗い、塩で揉んで高杯に盛り、机に立てて、母に差し上げたか、かわいい娘さん、父に差し上げたか、かわいい娘さんと詠む長歌。
場面イラスト(準備中)
題詞(能登國の歌)
- 1加島嶺加島嶺かしまねののの机机つくえののの島島しまののの所聞多禰乃 机之島能
- 2小螺小螺したたみをををいいい拾拾ひりひひい持持もちちち來來きててて小螺乎 伊拾持來而
- 3石石いし以以もちちち啄啄つつきききはふりはふりはふり石以 都追伎破夫利
- 4早早はや川川かわににに洗洗あらひひい濯濯すすぎぎぎ早川爾 洗濯
- 5辛辛から鹽鹽しおにににこごとこごとこごと揉揉もみみみ辛鹽爾 古胡登毛美
- 6高杯高杯たかつきににに盛盛もりりり机机つくえににに立立たてててててて高杯爾盛 机爾立而
- 7母母ははににに奉奉まつりりりつやつやつやめづめづめず兒兒こののの刀自刀自とじ母爾奉都也 目豆兒乃負
- 8父父ちちににに獻獻まつりりりつやつやつやみめづみめづみめず兒兒こののの刀自刀自とじ父爾獻都也 身女兒乃負
現代語訳
加島嶺の机の島の小さな巻貝を拾って持って来て、石でつついて割り、早瀬で洗いすすぎ、からい塩でごしごし揉み、高杯に盛って机に立てて、母上に差し上げたか、かわいい娘さんよ。父上に差し上げたか、かわいい娘さんよ。
意訳
能登の机の島で拾った小さな巻貝を、割って洗い、塩で揉んで高杯に盛り、父母に差し上げたかと娘に呼びかける民謡である。貝の料理の手順を順に歌い込む、労働歌風の歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 加島嶺
- 「かしまね」。能登の地名。白文は「所聞多禰」と書く。
- 机の島
- 「つくゑのしま」。七尾湾の島。
- 小螺
- 「したたみ」。小さな巻貝。
- 啄きはふり
- つついて割り。
- こごと揉み
- ごしごしと揉んで。
- めづ兒の刀自
- かわいい娘さん。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十六・雑歌・3880番
- 歌体
- 長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 能登国の歌謡。
修辞
- 対句
- 「母に奉りつやめづ兒の刀自」と「父に獻りつやみめづ兒の刀自」。
解説
食物の調理の手順を詠みこむ歌は、巻第十六の乞食者の歌(3885・3886番)にも見られる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、600頁(コマ93)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、703頁(コマ115)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日