万葉集 巻第十六 3849〜3850番
生死の 二つの海を
河原寺の仏堂の倭琴の面に書かれていた、世の無常を厭う歌二首。生と死の二つの海を厭わしく思って、潮の干た彼岸の山を慕うことよという歌と、世の中の煩わしい仮の庵に住み続けて、行き着くべき国の手立ても知らないことよという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞世間の無常を厭ふ歌二首
現代語訳
〔3849〕生と死の二つの海を厭わしく思って、潮の干た彼岸の山を、慕い求めることだ。
〔3850〕世の中の煩わしい仮の庵に住み続けて、行き着くべき国への手立ても知らないことだ。
意訳
河原寺の仏堂にあった倭琴の面に書きつけられていた歌である。生死の苦しみの海を厭い、潮の引いた彼岸の山(悟りの境地)を慕う歌と、煩わしい世の仮住まいを続けて、浄土に至る手立ても知らないと嘆く歌で、仏教の無常観を詠む。
語釈・文法注
文法・本文
- 生死の二つの海
- 生と死の苦しみを海にたとえた仏教語。
- 潮干の山
- 潮の引いた後の山。彼岸、悟りの境地のたとえ。
- 借廬
- 「かりいほ」。仮の住まい。この世のたとえ。
- 至らむ國
- 行き着くべき国。浄土。
- たづき
- 手立て。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十六・雑歌・3849〜3850番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 河原寺の仏堂の倭琴に書かれていた作者未詳の歌。
修辞
- 譬喩
- 生死を海に、悟りを潮干の山にたとえる。
解説
仏教思想を和歌に詠んだ早い例として注目される。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、595頁(コマ90)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、698頁(コマ113)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日