古典ライブラリー

万葉集 巻第十六 3822〜3823番

橘の 寺の長屋に

作者未詳

古歌と、それを改めた椎野長年の歌。橘寺の長屋に連れて寝た、おかっぱの少女はもう髪を結い上げただろうかという古歌と、寺の長屋に俗人が寝るはずはないとして改めた、橘の照り輝く長屋に連れて寝たおかっぱの少女は髪を結い上げただろうかという歌。

寺の長屋の前に、髪を肩で切りそろえた少女が立っている

題詞古歌に曰く

  1. 1橘たちばな橘たちばなたちばなののの橘3822 古歌
  2. 2寺てら寺てらてらののの長なが長ながなが屋や屋ややににに寺之長屋爾
  3. 3吾わ吾わわががが率ゐ率ゐい宿ね宿ねねししし吾率宿之
  4. 4童女うなゐ童女うなゐうない放髮はなり放髮はなりはなりははは童女波奈理波
  5. 5髮かみ髮かみかみあげあげあげつらつらつらむむんかかか髮上都良武可
  6. 6橘たちばな橘たちばなたちばなののの橘之3823 椎野長年
  7. 7光て光ててれれれるるる長なが長ながなが屋や屋ややににに光有長屋爾
  8. 8わわわががが率ゐ率ゐい寢ね寢ねねししし吾率宿之
  9. 9童女うなゐ童女うなゐうない放髮はなり放髮はなりはなりににに宇奈爲放爾
  10. 10髮かみ髮かみかみ上あ上ああげげげつらつらつらむむんかかか髮擧都良武香

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔3822〕橘寺の長屋に私が連れて来て寝た、髪を垂らした少女は、もう髪を結い上げただろうか。

〔3823〕橘の照り輝く長屋に私が連れて来て寝た、髪を垂らした少女は、もう髪を結い上げただろうか。

意訳

3822番は、橘寺の長屋で共寝した幼い少女がもう成人して髪を結い上げただろうかと思いやる古歌である。椎野長年は、寺の建物は俗人の寝所ではないとして「寺」を「光れる」に改め、さらに放髪と髪上げの言葉の重複を指摘して、3823番の形に直した。

語釈・文法注

文法・本文

橘の寺
大和の橘寺。
率宿し
「ゐねし」。連れて来て寝た。
童女放髮
「うなゐはなり」。うなじで切りそろえて垂らした少女の髪。
髮あげ
成人して髪を結い上げること。

和歌

作者
作者未詳
出典
『万葉集』巻第十六・雑歌・3822〜3823番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
作者未詳(時代を問わない)
状況
古歌と、それを改めた椎野長年の歌。

修辞

改作
3823番は3822番の古歌を合理的に改めたもの。

解説

歌の言葉の合理性を論じて改作した例として珍しく、当時の歌の批評のあり方を伝える。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、590頁(コマ88)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、692頁(コマ110)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日