万葉集 巻第十五 3714〜3717番
秋されば 戀しみ妹を
竹敷の浦の歌十八首の終わりの四首。秋になって恋しい妻を夢でだけでも長く見ようと思ったのに夜が明けたという歌、独りで着て寝る衣の紐を解いたら誰が結んでくれるのか、家は遠いのにという歌、天雲のように漂って来ると九月の紅葉の山も色あせたという歌、旅でも無事に早く帰ってと妻が結んだ紐は着慣れてくたびれたという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞(竹敷浦に船泊てし時、各心緒を陳べて作れる歌十八首)
- 1秋秋あきささされれればばば安伎佐禮婆3714
- 2戀戀こいしみしみしみ妹妹いもををを故非之美伊母乎
- 3夢夢いめにににだにだにだに伊米爾太爾
- 4久久ひさしくしくしく見見みむむむををを比佐之久見牟乎
- 5明明あけけけにににけるけるけるかもかもかも安氣爾家流香聞
- 6獨獨ひとりのみのみのみ比等里能未3715
- 7著著きぬるぬるぬる衣衣ころもののの伎奴流許呂毛能
- 8紐紐ひも解解とかかかばばば比毛等加婆
- 9誰誰たれかもかもかも結結ゆははわむむん多禮可毛由波牟
- 10家家いえ遠遠どおくくくしししててて伊敝杼保久之弖
- 11天天あま雲雲くもののの安麻久毛能3716
- 12たゆたひたゆたひたゆたい來來くれれればばば多由多比久禮婆
- 13九月九月ながつきののの九月能
- 14黃葉黃葉もみちののの山山やまももも毛美知能山毛
- 15うつろひうつろひうつろいにににけりけりけり宇都呂比爾家里
- 16旅旅たびにににてててももも多婢爾弖毛3717
- 17喪喪も無無なくくく早早はや來來こととと母奈久波也許登
- 18吾吾わぎ妹妹も子子こががが和伎毛故我
- 19結結むすびびびししし紐紐ひもははは牟須妣思比毛波
- 20褻褻なれれれにににけるけるけるかもかもかも奈禮爾家流香聞
現代語訳
〔3714〕秋になると恋しくなるいとしい妻を、せめて夢にでも長く見ようと思ったのに、夜が明けてしまったことだ。
〔3715〕ひとりだけで着て寝る衣の紐を解いたなら、誰が結んでくれるだろうか。家は遠く離れているのに。
〔3716〕天雲のようにただよいながら来たので、九月の紅葉の山も、色あせてしまったことだ。
〔3717〕旅にあっても災いなく早く帰って来てと、いとしい妻が結んでくれた紐は、着慣れてくたびれてしまったことだ。
意訳
竹敷の浦の歌十八首の結びである。夢でだけでも妻に逢いたいのに夜が明けた嘆き、妻が結んだ紐を解いたら結び直す人もいないという歌、ただようような旅の間に紅葉の山も色あせたという歌、妻の結んだ紐もくたびれるほど旅が長くなったという歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 戀しみ
- 恋しいので。
- 結はむ
- 「ゆはむ」。結ぶだろう。
- たゆたひ
- ただよって。
- 喪無く
- 「もなく」。災いなく。
- 褻れにける
- 「なれにける」。着慣れてくたびれた。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十五・部立なし・3714〜3717番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 遣新羅使人が対馬の竹敷の浦で詠んだ歌。
修辞
- 照応
- 3717番は、妻の結んだ紐を解かないという誓いの習俗を背景にする。
解説
この後、使節は新羅に渡ったが、その間の歌は残されず、次は帰路の播磨の家島の歌となる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、568頁(コマ77)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、668頁(コマ98)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日