万葉集 巻第十五 3697〜3699番
百船の 泊つる對馬の
対馬の浅茅の浦で順風を得られず五日とどまった時の歌三首。多くの船が泊まる対馬の浅茅山は時雨に紅葉したという歌、遠い鄙にも月は照るが妻からは遠く別れて来たという歌、秋になって露霜に堪えられず都の山は色づいただろうという歌。
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題詞對馬島の淺茅浦に到りて船泊てし時、順風を得ず、經停まること五箇日。ここに物華を瞻望し、各慟心を陳べて作れる歌三首
- 1百百もも船船ふねののの毛母布禰乃3697
- 2泊泊はつるつるつる對馬對馬つしまののの波都流對馬能
- 3淺茅淺茅あさじ山山やま安佐治山
- 4時雨時雨しぐれののの雨雨あめににに志具禮能安米爾
- 5もみだひもみだひもみだいにににけりけりけり毛美多比爾家里
- 6天天あま離離ざかるるる安麻射可流3698
- 7鄙鄙ひなにににももも月月つきははは比奈爾毛月波
- 8照照てれれれれれれどもどもども弖禮禮杼母
- 9妹妹いもぞぞぞ遠遠とおくくくははは伊毛曾等保久波
- 10別別わかれれれ來來きにににけるけるける和可禮伎爾家流
- 11秋秋あきささされれればばば安伎左禮婆3699
- 12置置おくくく露露つゆ霜霜しもににに於久都由之毛爾
- 13堪堪あへへえずずずしししててて安倍受之弖
- 14京師京師みやこののの山山やまははは京師乃山波
- 15色色いろづきづきづきぬぬぬらむらむらん伊呂豆伎奴良牟
現代語訳
〔3697〕多くの船が泊まる対馬の浅茅山は、時雨の雨に、紅葉したことだ。
〔3698〕(天離る)鄙にも月は照っているけれど、いとしい妻からは、遠く別れて来てしまったことだ。
〔3699〕秋になると置く露や霜に堪えきれずに、都の山は、色づいているだろう。
意訳
対馬の浅茅の浦で、順風を待って五日とどまった時の歌である。時雨に紅葉した浅茅山、鄙にも照る月と遠く離れた妻、露霜に色づいているだろう都の山を思う。
語釈・文法注
文法・本文
- 百船の
- 「ももふねの」。多くの船の。
- 淺茅山
- 「あさぢやま」。対馬の浅茅湾の山。
- もみだひ
- 紅葉して。
- 堪へずして
- 「あへずして」。堪えきれずに。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十五・部立なし・3697〜3699番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 遣新羅使人が対馬の浅茅の浦で詠んだ歌。
修辞
- 対比
- 3698番は月と妻の遠さを対比する。
解説
浅茅湾は対馬の中央の入り組んだ湾で、新羅へ渡る前の最後の寄港地の一つであった。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、566頁(コマ76)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、665頁(コマ96)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日