万葉集 巻第十五 3659〜3662番
秋風は 日に日に吹きぬ
筑紫の海辺で月を見て作った歌九首の前半。秋風が日ごとに吹く、妻はいつ帰るかと身を慎んで待っているだろうという歌と、荒津の崎に寄せる波のように絶え間なく妻を恋い続けるのかという大使の次男の歌二首、風とともに寄せる波に漁をする海人少女の裳の裾が濡れたという土師稲足の歌、空を仰ぐと夜が更けた、独り寝の夜は明けるなら明けてもよいという旋頭歌。
場面イラスト(準備中)
題詞海邊に月を望みて作れる歌九首
- 1秋秋あき風風かぜははは安伎可是波3659 大使の第二男
- 2日日ひににに日日けににに吹吹ふきききぬぬぬ比爾家爾布伎奴
- 3吾吾わぎ妹妹も子子こははは和伎毛故波
- 4何時何時いつとととかかか我我われををを伊都登加和禮乎
- 5齋齋いわひひい待待まつつつらむらむらん伊波比麻都良牟
- 6神神かむさぶるさぶるさぶる可牟佐夫流3660
- 7荒津荒津あらつののの埼埼さきににに安良都能左伎爾
- 8寄寄よするするする浪浪なみ與須流奈美
- 9間間ま無無なくくくややや妹妹いもににに麻奈久也伊毛爾
- 10戀戀こひひい渡渡わたりりりなむなむなん故非和多里奈牟
- 11風風かぜののの共共むた可是能牟多3661 土師稻足
- 12寄寄よせせせ來來くるるる浪浪なみににに與世久流奈美爾
- 13漁漁いざりするするする伊射里須流
- 14海人海人あまをををとめとめとめ等等らががが安麻乎等女良我
- 15裳裳もののの裾裾すそぬれぬれぬれぬぬぬ毛能須素奴禮奴
- 16天天あまののの原原はら安麻能波良3662 旋頭歌
- 17振振ふり放放さけけけ見見みれれればばば布里佐氣見禮婆
- 18夜夜よぞぞぞふけふけふけにににけるけるける欲曾布氣爾家流
- 19よしゑやしよしゑやしよしえやし與之惠也之
- 20獨獨ひとり寢寢ぬるるる夜夜よははは比等里奴流欲波
- 21明明あけけけばばば明明あけけけぬぬぬともともとも安氣婆安氣奴等母
現代語訳
〔3659〕秋風は日ごとに吹くようになった。いとしい妻は、いつ帰るかと、私のことを身を慎んで待っているだろう。
〔3660〕神々しい荒津の崎に寄せる波のように、絶え間なく、いとしい妻を恋い続けることになるのだろうか。
〔3661〕風とともに寄せて来る波に、漁をする海人の少女たちの裳の裾が濡れたことだ。
〔3662〕天の原を振り仰いで見ると、夜は更けてしまった。ままよ、ひとりで寝る夜は、明けるなら明けてしまってもかまわない。
意訳
筑紫の海辺で月を望んで詠んだ歌の前半である。日ごとに吹く秋風に妻の待つ心を思う歌、荒津の崎に寄せる波のように絶え間なく妻を恋う歌、風に寄せる波に裳を濡らす海人少女の歌、独り寝の夜は明けてもかまわないという旋頭歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 日に日に
- 「ひにけに」。日ごとに。
- 齋ひ待つ
- 身を慎んで待つ。
- 荒津の埼
- 「あらつのさき」。博多の港の崎。
- 風の共
- 「かぜのむた」。風とともに。
- よしゑやし
- ままよ。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十五・部立なし・3659〜3662番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 遣新羅使人が筑紫の海辺で月を見て詠んだ歌。3659番は大使阿倍継麻呂の次男、3661番は土師稲足の作。
修辞
- 序詞
- 3660番の「神さぶる荒津の埼に寄する浪」が「間無く」を導く。
- 旋頭歌
- 3662番は五七七五七七の旋頭歌。
解説
使人たちは秋を筑紫で迎え、秋に帰るという約束が果たせないことを思った。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、562頁(コマ74)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、658頁(コマ93)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日