万葉集 巻第十五 3640〜3643番
都方に 行かむ船もが
周防の熊毛の浦に泊まった夜の歌四首。都の方へ行く船があれば乱れる思いを告げてやりたいという羽栗の歌、明け方家が恋しい時に浦から楫の音がするのは海人少女かという歌、沖から潮が満ちて来るらしく韓の浦で鶴が鳴き騒ぐという歌、沖から船人が上って来るので呼び寄せて旅の宿りを告げてもらおうという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞熊毛浦に船泊てし夜作れる歌四首
- 1都都みやこ方方へににに美夜故邊爾3640 羽栗
- 2行行ゆかかかむむん船船ふねもももががが由可牟船毛我
- 3刈刈かり孤孤こもののの可里許母能
- 4亂亂みだれれれててて思思おもふふう美太禮弖於毛布
- 5言言こと告告つげげげやらやらやらむむん許登都礙夜良牟
- 6曉曉あかときののの安可等伎能3641
- 7家家いえ戀戀こいしきしきしきににに伊敝胡悲之伎爾
- 8浦浦うら廻廻みよりよりより宇良未欲理
- 9楫楫かじののの音音おとするするするははは可治乃於等須流波
- 10海人海人あま少女少女おとめかもかもかも安麻乎等女可母
- 11沖沖おき邊邊へよりよりより於枳敝欲理3642
- 12潮潮しお滿滿みちちち來來くらしらしらし之保美知久良之
- 13韓韓からののの浦浦うらににに可良能宇良爾
- 14求食求食あさりするするする鶴鶴たず安佐里須流多豆
- 15鳴鳴なきききててて騷騷さわぎぎぎぬぬぬ奈伎弖佐和伎奴
- 16沖沖おき邊邊へよりよりより於吉敝欲里3643
- 17船船ふな人人びとのぼるのぼるのぼる布奈妣等能煩流
- 18呼呼よびびび寄寄よせせせててて與妣與勢弖
- 19いざいざいざ告告つげげげ遣遣やらららむむん伊射都氣也良牟
- 20旅旅たびののの宿宿やどりををを多婢能也登里乎
現代語訳
〔3640〕都の方へ行く船があればなあ。(刈孤の)乱れて思う、この思いを告げてやろう。
〔3641〕明け方の、家が恋しい時に、浦のあたりから楫の音がするのは、海人の少女であろうか。
〔3642〕沖の方から潮が満ちて来るらしい。韓の浦で餌をあさる鶴が、鳴いて騒いでいる。
〔3643〕沖の方から船人が上って来る。呼び寄せて、さあ告げてやろう。旅の宿りの様子を。
意訳
周防の熊毛の浦に泊まった夜の歌である。都へ行く船に思いを託したいという羽栗の歌、家恋しい明け方に聞こえる楫の音、潮が満ちて騒ぐ鶴、都へ上る船人に旅の様子を伝えたいという歌が続く。
語釈・文法注
文法・本文
- 都方
- 「みやこへ」。都の方。
- 刈孤の
- 「かりこもの」。「亂れ」にかかる枕詞。
- 韓の浦
- 「からのうら」。熊毛の浦の近くの浦か。
- のぼる
- 都の方へ上る。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十五・部立なし・3640〜3643番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 遣新羅使人が周防の熊毛の浦(今の山口県上関町か)に泊まった夜の歌。3640番は羽栗の作。
修辞
- 枕詞
- 3640番の「刈孤の」。
解説
3640・3643番は、都へ向かう船に便りを託したいという思いを詠み、旅人の家郷への思いがうかがえる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、560頁(コマ73)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、655頁(コマ91)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日