万葉集 巻第十五 3630〜3633番
眞楫貫き 船し行かずは
周防の麻里布の浦を通った時の歌八首の前半。船が進まないのなら見飽きない麻里布の浦に泊まりたいという歌、いつ見られるかと思っていた粟島をよそに恋い慕うのかという歌、船をつなぐ杭を立てて麻里布の浦に泊まろうかという歌、逢うまいと思う妻でもないのに安眠もできず恋い続けるという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞周防國玖珂郡麻里布浦を行きし時作れる歌八首
- 1眞眞ま楫楫かじ貫貫ぬききき眞可治奴伎3630
- 2船船ふねししし行行ゆかかかずずずははは布禰之由加受波
- 3見見みれれれどどど飽飽あかかかぬぬぬ見禮杼安可奴
- 4麻里布麻里布まりふののの浦浦うらににに麻里布能宇良爾
- 5やどりやどりやどり爲爲せましましましををを也杼里世麻之乎
- 6いついついつしかしかしかももも伊都之可母3631
- 7見見みむむむととと思思おもひひいししし見牟等於毛比師
- 8粟島粟島あわしまををを安波之麻乎
- 9外外よそにににややや戀戀こひひいむむん與曾爾也故非無
- 10行行ゆくくくよしよしよしををを無無なみみみ由久與之乎奈美
- 11大大おお船船ぶねににに大船爾3632
- 12戕牁戕牁かし振振ふりりり立立たてててててて可之布里多弖天
- 13濱濱はま淸淸きよききき波麻藝欲伎
- 14麻里布麻里布まりふののの浦浦うらににに麻里布能宇良爾
- 15やどりやどりやどりかかか爲爲せましましまし也杼里可世麻之
- 16粟島粟島あわしまののの安波思麻能3633
- 17逢逢あははわじじじととと思思おもふふう安波自等於毛布
- 18妹妹いもにににあれあれあれややや伊毛爾安禮也
- 19安安やす宿宿いももも寢寢ねずずずててて夜須伊毛禰受弖
- 20吾吾あががが戀戀こひひい渡渡わたるるる安我故非和多流
現代語訳
〔3630〕左右の楫を取りつけても船が進まないのなら、いくら見ても見飽きない麻里布の浦に、泊まりたいものを。
〔3631〕いつになったら見られるかと思っていた粟島を、よそながら恋い慕うことになるのか。行くすべもないので。
〔3632〕大船に船をつなぐ杭を振り立てて、浜の清らかな麻里布の浦に泊まろうか。
〔3633〕粟島の「あは」ではないが、逢うまいと思う妻ででもあるというのか。安眠もできずに、私は恋い続けている。
意訳
周防の麻里布の浦(今の山口県岩国市の海岸)を通った時の歌である。美しい麻里布の浦に泊まりたいという歌、見たいと思っていた粟島に行けない嘆き、粟島の名から「逢はじ」を導いて妻への恋しさで眠れないと詠む歌が続く。
語釈・文法注
文法・本文
- 麻里布の浦
- 「まりふのうら」。周防国玖珂郡の浦。
- 粟島
- 「あはしま」。周防の島か。「逢は」を掛ける。
- 戕牁
- 「かし」。船をつなぐ杭。
- 安宿
- 「やすい」。安らかな眠り。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十五・部立なし・3630〜3633番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 遣新羅使人が周防の麻里布の浦を通った時の歌。
修辞
- 同音
- 3633番の「粟島の」が「逢はじ」を導く。
解説
麻里布の浦は今の岩国市の今津・室木あたりとされる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、559頁(コマ72)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、654頁(コマ91)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日