万葉集 巻第十五 3618〜3621番
山河の 清き川瀨に
安芸の長門島に泊まった時の歌五首の残り四首。山川の清い瀬で遊んでも奈良の都は忘れられないという歌、磯の間をたぎり流れる山川が絶えなければ秋にまた逢おうという歌、恋しさを慰めかねてひぐらしの鳴く島陰に仮寝をするという歌、長門の島の小松原は幾代を経て神々しくなったのかという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞(安藝國長門島にて船を磯邊に泊てて作れる歌五首)
- 1山山やま河河がわののの夜麻河泊能3618
- 2淸淸きよききき川川かわ瀨瀨せににに伎欲吉可波世爾
- 3遊遊あそべべべどもどもども安蘇倍杼母
- 4奈良奈良ならののの都都みやこははは奈良能美夜古波
- 5忘忘わすれれれかねかねかねつつつももも和須禮可禰都母
- 6磯磯いそののの間間まゆゆゆ伊蘇乃麻由3619
- 7激激たぎつつつ山山やま河河がわ多藝都山河
- 8絕絕たえええずずずあらあらあらばばば多延受安良婆
- 9またまたまたももも相相あい見見みむむん麻多母安比見牟
- 10秋秋あきかたまけかたまけかたまけててて秋加多麻氣氏
- 11戀戀こい繁繁しげみみみ故悲思氣美3620
- 12慰慰なぐさめめめかねかねかねててて奈具左米可禰氏
- 13晩蟬晩蟬ひぐらしののの比具良之能
- 14鳴鳴なくくく島島しまかげかげかげににに奈久之麻可氣爾
- 15廬廬いおりするするするかもかもかも伊保利須流可母
- 16我我わががが命命いのちををを和我伊能知乎3621
- 17長門長門ながとののの島島しまののの奈我刀能之麻能
- 18小小こ松松まつ原原ばら小松原
- 19幾幾いく代代よををを經經えてててかかか伊久與乎倍弖加
- 20神神かむさびさびさびわたるわたるわたる可武佐備和多流
現代語訳
〔3618〕山川の清らかな川瀬で遊んでも、奈良の都は忘れられないことだ。
〔3619〕磯の間をたぎり流れる山川が絶えることがないように、無事であったなら、また逢おう。秋を待ち受けて。
〔3620〕恋しさが募って慰めかねて、ひぐらしの鳴く島陰に、仮の宿りをすることだ。
〔3621〕(我が命を)長門の島の小松原は、幾代を経て、こんなに神々しくなっているのだろう。
意訳
安芸の長門島での歌の続きである。清らかな山川で遊んでも都が忘れられないという歌、秋には帰って再会しようという歌、恋しさを慰めかねてひぐらしの鳴く島陰で仮寝をする歌、古びて神々しい小松原をたたえる歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 激つ
- 「たぎつ」。たぎり流れる。
- かたまけて
- 待ち受けて、その時になって。
- 我が命を
- 「長」にかかる枕詞。命の長いことを願う意から。
- 神さびわたる
- 神々しくなっている。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十五・部立なし・3618〜3621番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 遣新羅使人が安芸国の長門島で詠んだ歌。
修辞
- 枕詞
- 3621番の「我が命を」。
解説
3619番の「秋かたまけて」は、秋の帰京を約束した出発前の贈答(3581・3586番)と響き合う。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、557頁(コマ71)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、651頁(コマ89)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日