万葉集 巻第十五 3602〜3605番
あをによし 奈良の都に
使人たちがその場で口ずさんだ古歌。奈良の都にたなびく白雲は見飽きないという雲の歌と、恋の歌三首。忌み慎むべき君に恋い続けるという歌、別れて久しくなっても一日も妻を忘れないという歌、飾磨川が絶える日にこそ私の恋は止むだろうという歌。
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題詞(遣新羅使人等の歌)所に當りて誦詠せる古歌
- 1あをによしあをによしあおによし安乎爾余志3602 詠雲
- 2奈良奈良ならののの都都みやこににに奈良能美夜古爾
- 3たなびけたなびけたなびけるるる多奈妣家流
- 4天天あまののの白白しら雲雲くも安麻能之良久毛
- 5見見みれれれどどど飽飽あかかかぬぬぬかもかもかも見禮杼安可奴加毛
- 6青青あお楊楊やぎののの安乎楊疑能3603 戀歌
- 7枝枝えだ伐伐きりりり下下おろししし延太伎里於呂之
- 8齋齋ゆ種種だね蒔蒔まききき湯種蒔
- 9忌忌ゆ忌忌ゆしきしきしき君君きみににに忌忌伎美爾
- 10戀戀こひひいわたるわたるわたるかもかもかも故非和多流香母
- 11妹妹いもががが袖袖そで妹我素弖3604 戀歌
- 12別別わかれれれててて久久ひさににに和可禮弖比左爾
- 13なりなりなりぬれぬれぬれどどど奈里奴禮杼
- 14一一ひと日日ひももも妹妹いもををを比登比母伊毛乎
- 15忘忘わすれれれててておもへおもへおもえややや和須禮弖於毛倍也
- 16わたつみわたつみわたつみののの和多都美乃3605 戀歌
- 17海海うみににに出出いでででたるたるたる宇美爾伊弖多流
- 18飾磨飾磨しかま河河がわ思可麻河泊
- 19絕絕たえええむむん日日ひにににこそこそこそ多延無日爾許曾
- 20吾吾あががが戀戀こい止止やまままめめめ安我故非夜麻米
現代語訳
〔3602〕(あをによし)奈良の都にたなびいている空の白雲は、いくら見ても見飽きないことだ。
〔3603〕青柳の枝を伐り下ろして、清めた種を蒔くように、忌み慎むべきあなたに、恋い続けることだ。
〔3604〕いとしい人と袖を分かって久しくなったけれど、一日でもいとしい人を忘れて思うことがあろうか。
〔3605〕海に流れ出ている飾磨川が絶える日が来たら、その時こそ私の恋は止むだろう。
意訳
旅の途中で使人たちが口ずさんだ古歌である。奈良の都の白雲を懐かしむ歌、身分違いの相手への恋の歌、別れた妻を一日も忘れないという歌、飾磨川が絶えない限り恋は止まないという歌で、いずれも旅の心に重ねて歌われた。
語釈・文法注
文法・本文
- 齋種
- 「ゆだね」。清めた稲の種。
- 忌忌しき
- 「ゆゆしき」。忌み慎むべき、恐れ多い。
- おもへや
- 思うだろうか、思いはしない。
- 飾磨河
- 「しかまがは」。播磨国の川。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十五・部立なし・3602〜3605番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 遣新羅使人がその場で口ずさんだ古歌。
修辞
- 序詞
- 3603番の「青楊の枝伐り下し齋種蒔き」が「忌忌しき」を導く。
解説
使人たちは土地にちなむ古歌を口ずさむことで、旅の心を慰めたと考えられる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、555頁(コマ70)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、648頁(コマ88)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日