万葉集 巻第十五 3598〜3601番
ぬばたまの 夜は明けぬらし
海路の途上の歌の続き。夜が明けたらしい、多麻の浦で餌をあさる鶴が鳴き渡るという歌、月の光が清いので神島の磯廻の浦から船出するという歌、離れ磯に立つ室の木は久しい時を過ぎたことだという歌、少しの間でもひとりでいられるものか、島の室の木は離れて立っているだろうという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞(遣新羅使人等の歌)船に乘り海に入りての路上に作れる歌
- 1ぬばたまぬばたまぬばたまののの奴波多麻能3598
- 2夜夜よははは明明あけけけぬぬぬらしらしらし欲波安氣奴良之
- 3多麻多麻たまののの浦浦うらににに多麻能宇良爾
- 4求食求食あさりするするする鶴鶴たず安佐里須流多豆
- 5鳴鳴なききき渡渡わたるるるなりなりなり奈伎和多流奈里
- 6月月つきよみよみよみののの月余美能3599
- 7光光ひかりををを淸淸きよみみみ比可里乎伎欲美
- 8神島神島かみしまののの神島乃
- 9いそみいそみいそみののの浦浦うらゆゆゆ伊素末乃宇良由
- 10船船ふな出出ですすすわれわれわれははは船出須和禮波
- 11離離はなれ磯磯そににに波奈禮蘇爾3600
- 12立立たてててるるる室室むろののの木木き多氏流牟漏能木
- 13うたがたうたがたうたがたももも宇多我多毛
- 14久久ひさしきしきしき時時ときををを比左之伎時乎
- 15過過すぎぎぎにににけるけるけるかもかもかも須疑爾家流香母
- 16暫暫しましくしくしくももも之麻思久母3601
- 17獨獨ひとりありありあり得得うるるる比等利安里宇流
- 18ものものものにににあれあれあれややや毛能爾安禮也
- 19島島しまののの室室むろののの木木き之麻能牟漏能木
- 20離離はなれれれてててあるあるあるらむらむらん波奈禮弖安流良武
現代語訳
〔3598〕(ぬばたまの)夜は明けたらしい。多麻の浦で餌をあさる鶴が、鳴いて渡って行くよ。
〔3599〕月の光が清らかなので、神島の磯廻の浦から、船出をするのだ、私は。
〔3600〕離れ磯に立っている室の木は、きっと、長い年月を過ごしてきたのだろう。
〔3601〕少しの間でも、ひとりでいられるものなのか。島の室の木は、離れて立っているのだろうか。
意訳
海路の途上の歌の続きである。夜明けに鶴が鳴き渡る多麻の浦の歌、月明かりの中で神島の浦から船出する歌、離れ磯にひとり立つ室の木に長い時の流れを思い、妻と離れた自分の孤独を重ねる歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 多麻の浦
- 備中国の玉島あたりか。
- 求食
- 「あさり」。餌をあさる。
- 月よみ
- 月。月読。
- 神島
- 「かみしま」。備後・備中の境の島か。
- いそみ
- 磯廻、磯のめぐり。
- 離磯
- 「はなれそ」。陸から離れた磯。
- 室の木
- 「むろのき」。ねずの木。
- うたがたも
- きっと、おそらく。
- 暫しくも
- 「しましくも」。少しの間でも。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十五・部立なし・3598〜3601番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 遣新羅使人が船に乗って海路を進む途上の歌。
修辞
- 擬人
- 3601番は室の木がひとりで立っていることに、自分の孤独を重ねる。
解説
室の木は備後の鞆の浦の名物として知られ、大伴旅人も巻第三(446〜448番)で詠んでいる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、554頁(コマ70)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、647頁(コマ87)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日