万葉集 巻第十五 3591〜3593番
妹と在りし 時はあれども
出発に臨んで作った歌三首。妻といた時はよかったが別れてみると袖が寒いという歌、海原で船寝をする夜は沖の風よひどく吹くなという歌、大伴の御津から船出したらどの島で仮寝をすることかという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞新羅に遣さるる使人等、別を悲しみて贈答し、及海路に情を慟しみ思を陳ぶ、并に所に當りて誦詠せる古歌
- 1妹妹いもととと在在ありりりししし妹等安里之3591
- 2時時ときはははあれあれあれどもどもども時者安禮杼毛
- 3別別わかれれれてててははは和可禮弖波
- 4衣衣ころも手手で寒寒さむききき許呂母弖佐牟伎
- 5ものものものにににぞぞぞありありありけるけるける母能爾曾安里家流
- 6海海うな原原はらににに海原爾3592
- 7浮浮うき宿宿ねせせせむむん夜夜よははは宇伎禰世武夜者
- 8沖沖おきつつつ風風かぜ於伎都風
- 9いたくいたくいたくななな吹吹ふきききそそそ伊多久奈布吉曾
- 10妹妹いももももあらあらあらなくなくなくににに妹毛安良奈久爾
- 11大伴大伴おおともののの大伴能3593
- 12御津御津みつににに船船ふな乘乘のりりり美津爾布奈能里
- 13榜榜こぎぎぎ出出でてててははは許藝出而者
- 14いづれいづれいずれののの島島しまににに伊都禮乃思麻爾
- 15廬廬いおりせせせむむん我我われ伊保里世武和禮
現代語訳
〔3591〕妻と一緒にいた時はともかく、別れてみると、衣の袖が寒いものであったよ。
〔3592〕海原で船の上に寝る夜は、沖の風よ、ひどく吹かないでおくれ。妻もいないのに。
〔3593〕大伴の御津で船に乗り、漕ぎ出したならば、どこの島で仮の宿りをすることだろう、私は。
意訳
難波の御津から出発しようとする時の歌三首である。妻と別れて袖の寒さを知る歌、妻のいない船上の夜に風よ吹くなと願う歌、これからどの島で仮寝をするのかと旅の不安を詠む歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 衣手寒き
- 袖が寒い。共寝をする妻がいないため。
- 浮宿
- 「うきね」。船の上で寝ること。
- いたくな吹きそ
- ひどく吹くな。
- 大伴の御津
- 難波の港。
- 廬せむ
- 「いほりせむ」。仮の宿りをするだろう。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十五・部立なし・3591〜3593番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 遣新羅使人たちが出発に臨んで作った歌。
修辞
- 対比
- 3591番は妻といた時と別れた後とを対比する。
解説
使節は天平8年6月ごろ難波を出航し、瀬戸内海を西へ向かった。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、554頁(コマ70)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、646頁(コマ87)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日