万葉集 巻第十五 3582〜3585番
大船を 荒海に出だし
遣新羅使人と妻との贈答歌の続き。荒海に出て行く夫に無事に早く帰ってと願う妻の歌、妻が身を慎んでいれば波が千重に立っても障りはないという夫の歌、別れたら悲しいので私の衣を下に着てと願う妻の歌、妻が贈った衣の紐を解いたりしようかという夫の歌。
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題詞新羅に遣さるる使人等、別を悲しみて贈答し、及海路に情を慟しみ思を陳ぶ、并に所に當りて誦詠せる古歌
- 1大大おお船船ぶねををを大船乎3582
- 2荒荒ある海海みににに出出いだしだしだし安流美爾伊太之
- 3いますいますいます君君きみ伊麻須君
- 4恙恙つつむむむことことことなくなくなく都追牟許等奈久
- 5早早はや歸歸かえりりりませませませ波也可敝里麻勢
- 6眞眞ま幸幸さきくくくててて眞幸而3583
- 7妹妹いもががが齋齋いわははわばばば伊毛我伊波伴伐
- 8沖沖おきつつつ浪浪なみ於伎都奈美
- 9千千ち重重えににに立立たつつつともともとも知敝爾多都等母
- 10障障さわりあらあらあらめめめやもやもやも佐波里安良米也母
- 11別別わかれれれなななばばば和可禮奈婆3584
- 12うらうらうら悲悲がなしけしけしけむむん宇良我奈之家武
- 13吾吾あががが衣衣ころも安我許呂母
- 14したしたしたにににををを著著きませませませ之多爾乎伎麻勢
- 15直直ただににに逢逢あふふうまでまでまでににに多太爾安布麻弖爾
- 16我我わぎ妹妹も子子こががが和伎母故我3585
- 17したしたしたにににももも著著きよよよととと之多爾毛伎余等
- 18贈贈おくりりりたるたるたる於久理多流
- 19衣衣ころもののの紐紐ひもををを許呂母能比毛乎
- 20吾吾あれ解解とかかかめめめやもやもやも安禮等可米也母
現代語訳
〔3582〕大船を荒海に漕ぎ出して行かれるあなた、障りなく早く帰っていらしてください。
〔3583〕無事でいて、いとしい人が身を慎んでいてくれたなら、沖の波が千重に立とうとも、障りがあろうか。
〔3584〕別れてしまったら、心悲しいことでしょう。私の衣を下に着ていてください。じかに逢うまでは。
〔3585〕いとしい人が下にも着ていてと贈ってくれた衣の紐を、私が解いたりしようか。
意訳
遣新羅使人と妻の贈答の続きである。妻は荒海に出る夫に無事に早く帰ってと願い、夫はお前が身を慎んで祈ってくれれば波が高くても障りはないと答える。妻が自分の衣を下に着ていてと頼むと、夫はその紐を解いたりはしないと誓う。
語釈・文法注
文法・本文
- 荒海
- 「あるみ」。荒い海。
- 恙む
- 「つつむ」。障りがある、病む。
- 齋はば
- 「いははば」。身を慎んで無事を祈ってくれたら。
- 障
- 「さはり」。さしさわり。
- うら悲しけむ
- 心悲しいだろう。
- したにを著ませ
- 下に着ていてください。
- 直に逢ふ
- じかに逢う。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十五・部立なし・3582〜3585番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 遣新羅使人とその妻の贈答。
修辞
- 贈答
- 妻と夫が交互に詠みかわす。
解説
衣を交換して下に着るのは、離れていても魂がつながるとする習俗による。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、553頁(コマ69)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、645頁(コマ86)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日