万葉集 巻第十四 3560〜3564番
眞金吹く 丹生の眞朱の
国名未詳の東歌の相聞。丹生の朱のように顔色に出して言わないだけだ、私の恋はという歌、門田を新しく掻いて日が照れば雨を待つように君を待つという歌、荒磯の玉藻のように独りで寝ているだろうか、私を待ちかねてという歌、比多潟の若布のように心乱れて私を待っているだろう、昨夜も今夜もという歌、浦を吹く風のように、どうしていとしい子を忘れられようかという歌。
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題詞東歌(相聞)
- 1眞眞ま金金かね吹吹ふくくく麻可禰布久3560
- 2丹生丹生にゅうののの眞眞ま朱朱そおののの爾布能麻曾保乃
- 3色色いろににに出出でててて伊呂爾低氏
- 4言言いははわなくなくなくのみのみのみぞぞぞ伊波奈久能未曾
- 5我我あががが戀戀こふふうらくらくらくははは安我古布良久波
- 6金門金門かなと田田だををを可奈刀田乎3561
- 7新新あら搔搔がききき間間まゆゆゆ見見み安良我伎麻由美
- 8日日ひががが照照とれれればばば比賀刀禮婆
- 9雨雨あめををを待待まととと如如のすすす阿米乎萬刀能須
- 10君君きみをををととと待待まとととももも伎美乎等麻刀母
- 11荒荒あり磯磯そやややににに安里蘇夜爾3562
- 12生生おふるふるうる玉玉たま藻藻もののの於布流多麻母乃
- 13うちうちうち靡靡なびききき宇知奈婢伎
- 14獨獨ひとりややや宿宿ねらむらむらむ比登里夜宿良牟
- 15吾吾あををを待待まちちちかねかねかねててて安乎麻知可禰氏
- 16比多比多ひた潟潟がたののの比多我多能3563
- 17磯磯いそののの若布若布わかめののの伊蘇乃和可米乃
- 18立立たちちち亂亂みだえええ多知美多要
- 19吾吾わをををかかか待待まつつつなもなもなも和乎可麻都那毛
- 20昨夜昨夜きそももも今夜今夜こよいももも伎曾毛己余必母
- 21小小こ菅菅すげろろろののの古須氣呂乃3564
- 22浦浦うら吹吹ふくくく風風かぜののの宇良布久可是能
- 23何何あどどど爲爲すすすすかかか安騰須酒香
- 24愛愛かなしけしけしけ兒兒ころろろををを可奈之家兒呂乎
- 25思思おもひひい過過すごさささむむん於毛比須吾左牟
現代語訳
〔3560〕(眞金吹く)丹生の朱の色のように、顔色に出して言わないだけなのだ。私が恋い慕っていることは。
〔3561〕門田を新しく掻きならす間に、日が照れば雨を待つように、あなたを待っていることだ。
〔3562〕荒磯に生える玉藻がなびくように、横になって独りで寝ているだろうか。私を待ちかねて。
〔3563〕比多潟の磯の若布が乱れるように、心乱れて私を待っているだろうか。昨夜も今夜も。
〔3564〕小菅の生える浦を吹く風のように、どうして、いとしいあの子を思い過ごすことができようか。
意訳
国名の分からない東歌の相聞の続きである。朱の色のように顔に出して言わないだけで恋しているという歌、日照りに雨を待つように恋人を待つ歌、玉藻のように独り寝をして自分を待っているだろう恋人を思う歌、若布のように心乱れて待っているだろう恋人を思う歌、いとしい子を忘れられないという歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 眞金吹く
- 「まかねふく」。「丹生」にかかる枕詞。鉄を精錬する意。
- 丹生の眞朱
- 「にふのまそほ」。丹生の地で採れる朱。
- 金門田
- 「かなとだ」。門前の田。
- 新搔き
- 「あらがき」。新しく田を掻くこと。
- 待と如す
- 「まとのす」。待つように。東国方言。
- 荒磯や
- 「ありそや」。荒磯。
- 比多潟
- 「ひたがた」。常陸の潟か。
- 立ち亂え
- 「たちみだえ」。立ち乱れて。
- 待つなも
- 待っているだろう。
- 何ど爲すか
- 「あどすすか」。どうしてか。
- 思ひ過さむ
- 忘れ去ろうか。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・相聞・3560〜3564番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の相聞。作者未詳。国名未詳。
修辞
- 序詞
- 3560番の「眞金吹く丹生の眞朱の」、3562番の「荒磯やに生ふる玉藻の」、3563番の「比多潟の磯の若布の」、3564番の「小菅ろの浦吹く風の」。
解説
3561番は、田仕事で雨を待つ農民の実感を恋の歌に生かしている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、546頁(コマ66)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、637頁(コマ82)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日