万葉集 巻第十四 3556〜3559番
鹽船の 置かれば悲し
国名未詳の東歌の相聞。船に寄せる歌。塩船のように置いておけば悲しく、共寝をすれば噂がうるさい、お前をどうしようという歌、悩ましい人妻よ、漕ぐ船のように忘れられずいっそう思いが増すという歌、逢わずに行けば惜しいだろう、許我を漕ぐ船であなたに逢えないかという歌、大船を舳も艫も固めるように固く約束したのに、許曾の里人が二人の仲をあらわにするだろうかという歌。
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題詞東歌(相聞)
- 1鹽鹽しお船船ぶねののの思保夫禰能3556
- 2置置おかかかれれればばば悲悲かなししし於可禮婆可奈之
- 3さささ寢寢ねつれつれつればばば左宿都禮婆
- 4人人ひと言言ごとしげししげししげし比登其等思氣志
- 5汝汝なををを何何どかかかももも爲爲しむむむ那乎可母思武
- 6惱惱なやましけしけしけ奈夜麻思家3557
- 7他他ひと妻妻づまかもかもかもよよよ比登都麻可母與
- 8漕漕こぐぐぐ船船ふねののの許具布禰能
- 9忘忘わすれれれははは爲爲せ無無なななな和須禮波勢奈那
- 10彌彌いや思思もひひい增增ますすすににに伊夜母比麻須爾
- 11逢逢あははわずずずしししててて安波受之氏3558
- 12行行ゆかかかばばば惜惜おしけしけしけむむん由加婆乎思家牟
- 13眞久良我眞久良我まくらがののの麻久良我能
- 14許我許我こが漕漕こぐぐぐ船船ふねににに許賀己具布禰爾
- 15君君きみももも逢逢あははわぬぬぬかもかもかも伎美毛安波奴可毛
- 16大大おお船船ぶねををを於保夫禰乎3559
- 17舳舳えゆゆゆももも艫艫ともゆゆゆももも倍由毛登毛由毛
- 18堅堅かためめめてててししし可多米提之
- 19許曾許曾こそののの里里さと人人びと許曾能左刀妣等
- 20顯顯あらわさささめめめかもかもかも阿良波左米可母
現代語訳
〔3556〕塩船のように置いておけば悲しい。共寝をすれば人の噂がうるさい。お前をどうしたらよいのだろう。
〔3557〕悩ましい人妻であることよ。漕ぐ船のように忘れることはなく、いよいよ思いが増すばかりなのに。
〔3558〕逢わずに行ってしまったら、惜しいことだろう。眞久良我の許我を漕ぐ船で、あなたにも逢えないものか。
〔3559〕大船を舳からも艫からも固めるように、固く約束したのに、許曾の里人が二人の仲をあらわにするだろうか。
意訳
国名の分からない東歌の相聞で、船に寄せる歌が続く。置いておけば悲しく共寝をすれば噂になる恋の悩みの歌、忘れられない人妻への思いの歌、別れる前に船の上ででも逢いたいという歌、固く約束した仲を里人に知られはしまいかと恐れる歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 鹽船
- 「しほぶね」。塩を運ぶ船、または海を行く船。
- 置かれば
- 置いておけば。
- 何かも爲む
- どうしようか。
- 惱しけ
- 「なやましけ」。悩ましい。
- 忘れは爲無な
- 忘れはしないで。東国方言。
- 惜しけむ
- 惜しいだろう。
- 舳
- 「へ」。船の前部。
- 艫
- 「とも」。船の後部。
- 許曾
- 「こそ」。地名か。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・相聞・3556〜3559番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の相聞。作者未詳。国名未詳。
修辞
- 序詞
- 3557番の「漕ぐ船の」、3559番の「大船を舳ゆも艫ゆも」。
解説
3558番は3555番と同じく眞久良我の許我を詠み、許我の渡しが恋の舞台として知られていたことを示す。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、546頁(コマ66)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、637頁(コマ82)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日