万葉集 巻第十四 3552〜3555番
松が浦に 騷ゑうら立ち
国名未詳の東歌の相聞。海や湊に寄せる歌。松が浦の騒ぎのように人の噂が立っても、あなたも私と同じように思ってくださるだろうという歌、可家の湊に入る潮のように言い出しにくいが入って寝ようという歌、妹の寝床のあたりに岩をくぐる水であったら入って寝ようにという歌、許我の渡しの唐楫の音のように噂が高い、共寝もしない子のためにという歌。
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題詞東歌(相聞)
- 1松松まつががが浦浦うらににに麻都我宇良爾3552
- 2騷騷さわゑゑえうらうらうら立立だちちち佐和惠宇良太知
- 3眞眞ま他他ひと言言ごと麻比等其等
- 4思思おもほほおすすすなもなもなもろろろ於毛抱須奈母呂
- 5我我わががが思思もほほほ如如のすすすももも和賀母抱乃須毛
- 6味鎌味鎌あじかまののの安治可麻能3553
- 7可家可家かけののの湊湊みなとににに可家能水奈刀爾
- 8入入いるるる潮潮しおののの伊流思保乃
- 9言言こ出出てたたたすすすくもかくもかくもか許氏多受久毛可
- 10入入いりりりててて寢寢ねまくまくまくももも伊里氏禰麻久母
- 11妹妹いもががが寢寢ぬるるる伊毛我奴流3554
- 12床床とこのののあたりあたりあたりににに等許乃安多理爾
- 13石石いわ泳泳ぐくるるる伊波具久留
- 14水水みずにににもももがががもももよよよ水都爾母我毛與
- 15入入いりりりててて寢寢ねまくまくまくももも伊里氏禰末久母
- 16眞久良我眞久良我まくらがののの麻久良我乃3555
- 17許我許我こがののの渡渡わたりののの許我能和多利乃
- 18からからから楫楫かじののの可良加治乃
- 19音音おと高高たかしししもももななな於登太可思母奈
- 20寢寢ね無無なへへえ兒兒こ故故ゆえににに宿莫敝兒由惠爾
現代語訳
〔3552〕松が浦に騒ぐ波のように、心騒いで立つ人の噂を、あなたも思っていらっしゃるだろう。私が思うのと同じように。
〔3553〕味鎌の可家の湊に入って来る潮のように、言い出しにくいことだろうか。入って共寝をしたいということは。
〔3554〕いとしい人が寝る床のあたりに、岩の間をくぐって流れる水であったらなあ。入って共寝をしよう。
〔3555〕眞久良我の許我の渡しの唐楫の音のように、噂の高いことよ。共寝もしないあの子のために。
意訳
国名の分からない東歌の相聞で、海や湊、川に寄せる歌である。騒がしい噂をあなたも私と同じく気にしているだろうという歌、潮のように恋人の家に入って共寝をしたいと言い出しかねる歌、岩をくぐる水になって恋人の床に入りたいという歌、共寝もしないのに噂ばかり高いと嘆く歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 騷ゑうら立ち
- 「さわゑうらだち」。騒いで心が波立って。
- 眞他言
- 「まひとごと」。人の噂。
- 思ほすなもろ
- お思いになっているだろう。東国方言。
- 思ほ如すも
- 「もほのすも」。思うように。
- 可家の湊
- 「かけのみなと」。所在未詳。
- 言出たすくもか
- 言い出しにくいことか。
- 石泳る
- 「いはぐくる」。岩の間をくぐって流れる。
- 許我の渡
- 「こがのわたり」。下総国古河の渡し。
- から楫
- 唐風の楫。
- 寢無へ兒
- 「ねなへこ」。共寝をしない子。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・相聞・3552〜3555番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の相聞。作者未詳。国名未詳。
修辞
- 序詞
- 3552番の「松が浦に騷ゑうら立ち」、3553番の「味鎌の可家の湊に入る潮の」、3555番の「眞久良我の許我の渡のから楫の」。
- 反復
- 3553・3554番は「入りて寢まくも」で結ぶ。
解説
3555番の許我の渡しは、今の茨城県古河市あたりの利根川(渡良瀬川)の渡しとされる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、546頁(コマ66)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、636頁(コマ82)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日