古典ライブラリー

万葉集 巻第十四 3549〜3551番

多由比潟 潮滿ちわたる

作者未詳

国名未詳の東歌の相聞。潮が満ちわたる多由比潟をどこから愛しい夫は通って来るのだろうという歌、稲をつくのを拒みはしないが、昨夜ひとりで寝て波の穂のようにひどく体を揺すぶるという歌、味鎌の潟に咲く波の平瀬のように、いとしい人をおいてほかで紐を解くものかという歌。

潮の満ちた潟に、白い波が寄せている

題詞東歌(相聞)

  1. 1多由比たゆひ多由比たゆひたゆい潟がた潟がたがた多由比我多3549
  2. 2潮しほ潮しほしお滿み滿みみちちちわたるわたるわたる志保彌知和多流
  3. 3何處いづ何處いづいずゆゆゆかもかもかも伊豆由可母
  4. 4愛かな愛かなかなしきしきしき夫せ夫せせろろろががが加奈之伎世呂我
  5. 5吾わ吾わわ許がり許がりがり通かよ通かよかよははわむむん和賀利可欲波牟
  6. 6押お押おおしししててて否いな否いないなととと於志氏伊奈等3550
  7. 7稻いね稻いねいねははは舂つ舂つつかかかねねねどどど伊禰波都可禰杼
  8. 8波なみ波なみなみののの穗ほ穗ほほののの奈美乃保能
  9. 9甚いた甚いたいた振ぶ振ぶぶらしらしらしもももよよよ伊多夫良思毛與
  10. 10昨夜きそ昨夜きそきそひとりひとりひとり宿ね宿ねねててて伎曾比登里宿而
  11. 11味鎌あぢかま味鎌あぢかまあじかまののの阿遲可麻能3551
  12. 12潟かた潟かたかたににに開さ開ささくくく波なみ波なみなみ可多爾左久奈美
  13. 13平ひら平ひらひら瀨せ瀨せせにににももも比良湍爾母
  14. 14紐ひも紐ひもひも解と解ととくくくものものものかかか比毛登久毛能可
  15. 15かなしけかなしけかなしけををを措お措おおきききててて加奈思家乎於吉氏

引用の仕方

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現代語訳

〔3549〕多由比潟に潮が満ちわたっている。どこを通って、いとしい夫は私のもとへ通って来るのだろう。

〔3550〕無理に嫌だと言って稲をつかないわけではないが、波の穂のようにひどく体を揺すぶることだ。昨夜ひとりで寝て。

〔3551〕味鎌の潟に咲く波の平瀬のように、たやすく紐を解いたりするものか。いとしい人をさしおいて。

意訳

国名の分からない東歌の相聞の続きである。潮の満ちた潟を夫はどこを通って来るのかと案じる妻の歌、ひとり寝の夜を過ごして稲つきの手にも力が入るという歌、いとしい人をおいてほかの人に紐を解いたりはしないという誓いの歌である。

語釈・文法注

文法・本文

多由比潟
「たゆひがた」。所在未詳の潟。
何處ゆかも
「いづゆかも」。どこを通ってか。
吾許
「わがり」。私のもと。
押して否と
無理に嫌だと言って。
甚振らしも
「いたぶらしも」。ひどく揺すぶる。
昨夜
「きそ」。
味鎌の潟
「あぢかまのかた」。所在未詳。
平瀨
「ひらせ」。浅く平らな瀬。
措きて
「おきて」。さしおいて。

和歌

作者
作者未詳
出典
『万葉集』巻第十四・相聞・3549〜3551番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
作者未詳(時代を問わない)
状況
東歌の相聞。作者未詳。国名未詳。

修辞

序詞
3550番の「波の穗の」、3551番の「味鎌の潟に開く波平瀨にも」。

解説

3550番は稲つきの労働の場で歌われたと考えられ、3459番とも通じる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、545頁(コマ65)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、636頁(コマ82)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日