万葉集 巻第十四 3542〜3544番
細石に 駒を馳させて
国名未詳の東歌の相聞。小石の上を駒に走らせて心が痛む、私の思う妹の家のあたりかという歌、都留の堤が出来上がったように仲は成ったとあの子は言うが、まだ共寝はしていないという歌、飛鳥川の底が濁っているのを知らずに夫と共寝をして悔しいという歌。
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題詞東歌(相聞)
- 1細細さざれ石石いしににに佐射禮伊思爾3542
- 2駒駒こまををを馳馳はさせさせさせててて古馬乎波佐世氏
- 3心心こころ痛痛いたみみみ己許呂伊多美
- 4吾吾あががが思思もふふう妹妹いもががが安我毛布伊毛我
- 5家家いえののの邊邊あたりかもかもかも伊敝乃安多里可聞
- 6むろがやむろがやむろがやののの武路我夜乃3543
- 7都留都留つるののの堤堤つつみののの都留能都追美乃
- 8成成なりりりぬぬぬがががににに那利奴賀爾
- 9兒兒ころろろははは言言いへへえどもどもども古呂波伊敝杼母
- 10未未いまだだだ寢寢ねなくなくなくににに伊末太年那久爾
- 11飛鳥飛鳥あすか河河がわ阿須可河泊3544
- 12下下した濁濁にごれれれるるるををを之多爾其禮留乎
- 13知知しらららずずずしししててて之良受思天
- 14背背せなななととと二人二人ふたり勢奈那登布多理
- 15さささ宿宿ねててて悔悔くやしししももも左宿而久也思母
現代語訳
〔3542〕小石の上を駒に走らせて、心が痛む。私の思ういとしい人の家のあたりであろうか。
〔3543〕(むろがやの)都留の堤が出来上がったように、もう仲は成ったようなものだとあの子は言うけれど、まだ共寝をしていないのに。
〔3544〕飛鳥川の底が濁っているのを知らずに、あの人と二人で共寝をして、悔しいことだ。
意訳
国名の分からない東歌の相聞の続きである。恋人の家のあたりを駒で駆けて胸を痛める歌、仲は成ったと言われてもまだ共寝していないという歌、相手の心の底の濁りを知らずに共寝して悔やむ女の歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 細石
- 「さざれいし」。小石。
- 馳させて
- 「はさせて」。走らせて。
- 邊
- 「あたり」。あたり。
- むろがやの
- 「都留」にかかる枕詞か。
- 都留の堤
- 「つるのつつみ」。甲斐国都留郡の堤か。
- 成りぬがに
- 出来上がったように。
- 下濁れる
- 「したにごれる」。底が濁っている。相手の不実のたとえ。
- 背な
- 「せな」。夫、恋人。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・相聞・3542〜3544番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の相聞。作者未詳。国名未詳。
修辞
- 序詞
- 3543番の「むろがやの都留の堤の」、3544番の「飛鳥河下濁れるを」。
- 譬喩
- 3544番は川の底の濁りに相手の心をたとえる。
解説
3544番の飛鳥川は大和の川の名だが、東国にも同名の川があったとも考えられる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、545頁(コマ65)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、635頁(コマ81)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日