万葉集 巻第十四 3508〜3511番
芝付の 美宇良埼なる
国名未詳の東歌の相聞。芝付の美宇良崎の根都古草のように、逢わなかったら恋しく思わなかったのにという歌、白山の風で寝られないが、子の襲着があるのはよいという歌、空を行く雲になって今日行って妹と語らい明日帰って来たいという歌、青嶺にたなびく雲のようにためらいがちに物思いをする、年のこのごろという歌。
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題詞東歌(相聞)
- 1芝付芝付しばつきののの芝付乃3508
- 2美宇良美宇良みうら埼埼さきなるなるなる御宇良佐伎奈流
- 3根都古根都古ねつこ草草ぐさ根都古具佐
- 4相相あい見見みずずずあらあらあらばばば安比見受安良婆
- 5我我あれ戀戀こひひいめめめやもやもやも安禮古非米夜母
- 6栲栲たく衾衾ぶすま多久夫須麻3509
- 7白白しら山山やま風風かぜののの之良夜麻可是能
- 8宿宿ねなななへへへどもどもども宿奈敝杼母
- 9子子ころろろががが襲襲おそ著著きののの古呂賀於曾伎能
- 10有有あろろろこそこそこそ善善えしししももも安路許曾要志母
- 11みみみ空空そら行行ゆくくく美蘇良由久3510
- 12雲雲くもにににもももがががもももななな君母爾毛我母奈
- 13今日今日きょう行行ゆきききててて家布由伎氏
- 14妹妹いもににに言言こと問問どひひい伊母爾許等杼比
- 15明日明日あす歸歸かえりりり來來こむむむ安須可敝里許武
- 16青青あお嶺嶺ねろろろににに安乎禰呂爾3511
- 17たなびくたなびくたなびく雲雲くもののの多奈婢久君母能
- 18いさよひいさよひいさよいににに伊佐欲比爾
- 19物物ものをををぞぞぞ思思おもふふう物能乎曾於毛布
- 20年年としのののこここのののごろごろごろ等思乃許能己呂
現代語訳
〔3508〕芝付の美宇良崎にある根都古草のように、逢うことがなかったならば、私は恋しく思うことがあろうか。
〔3509〕(栲衾)白山から吹く風で眠れないけれど、あの子の襲着があるのはよいことだ。
〔3510〕空を行く雲であったらなあ。今日行って、いとしい人と語らって、明日帰って来よう。
〔3511〕青い嶺にたなびく雲がただようように、ためらいながら物思いをすることだ。年のこのごろは。
意訳
国名の分からない東歌の相聞の続きである。逢わなければ恋しくもならなかったのにという歌、山風が寒くても恋人の衣があるのはありがたいという歌、雲になって恋人のもとへ一日で行き来したいという歌、雲がただようように物思いにふけるという歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 芝付
- 「しばつき」。地名。所在未詳。
- 美宇良埼
- 「みうらさき」。相模の三浦崎か。
- 根都古草
- 「ねつこぐさ」。草の名。所在未詳。
- 栲衾
- 「たくぶすま」。「白」にかかる枕詞。
- 宿なへども
- 寝られないけれども。
- 襲著
- 「おそき」。上に重ねて着る衣。
- 有ろこそ善しも
- あるのはよいことだ。東国方言。
- 言問ひ
- 「ことどひ」。語らって。
- いさよひ
- ためらい。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・相聞・3508〜3511番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の相聞。作者未詳。国名未詳。
修辞
- 序詞
- 3508番の「芝付の美宇良埼なる根都古草」、3511番の「青嶺ろにたなびく雲の」。
- 願望
- 3510番は雲になって恋人のもとへ行きたいと願う。
解説
3510番は、雲に託して遠い恋人を思う、防人や旅人の歌とも考えられる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、543頁(コマ64)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、631頁(コマ79)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日