万葉集 巻第十四 3504〜3507番
春べ咲く 藤の末葉の
国名未詳の東歌の相聞。春に咲く藤の末葉のように心安らかに寝る夜はない、子を思うとという歌、宮の瀬川の貌花のように恋しく思って寝ているだろうか、昨夜も今夜もという歌、新室の祝いの宴で、穂に出たように思いを表した君がこのごろ見えないという歌、谷が狭くて峰まで這っている玉葛のように、絶えようという心を私は持っていないという歌。
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題詞東歌(相聞)
- 1春春はるべべべ咲咲さくくく波流敝左久3504
- 2藤藤ふじののの末末うら葉葉ばののの布治能宇良葉乃
- 3うらうらうら安安やすににに宇良夜須爾
- 4さささ寢寢ぬるるる夜夜よぞぞぞなきなきなき左奴流夜曾奈伎
- 5子子ころろろをををししし思思もへへへばばば兒呂乎之毛倍婆
- 6うちうちうち日日ひさつさつさつ宇知比佐都3505
- 7宮宮みやののの瀨瀨せ川川がわののの美夜能瀨河泊能
- 8貌貌かお花花ばなののの可保婆奈能
- 9戀戀こひひいてててかかか寢寢ぬらららむむん孤悲天香眠良武
- 10昨夜昨夜きそももも今夜今夜こよいももも伎曾母許余比毛
- 11新新にい室室むろののの爾比牟路能3506
- 12言言こと壽壽ほぎににに到到いたれれればばば許騰伎爾伊多禮婆
- 13はたはたはた薄薄すすき波太須酒伎
- 14穗穗ほににに出出でししし君君きみががが穗爾氏之伎美我
- 15見見みえええぬぬぬ此此このののごろごろごろ見延奴己能許呂
- 16谷谷たに狹狹せばみみみ多爾世婆美3507
- 17峰峰みねににに蔓蔓はひひいたるたるたる彌年爾波比多流
- 18玉玉たま葛葛かずら多麻可豆良
- 19絕絕たえええむむんののの心心こころ多延武能己許呂
- 20吾吾わががが思思もはははなくなくなくににに和我母波奈久爾
現代語訳
〔3504〕春に咲く藤の末葉のように、心安らかに寝る夜はない。あの子のことを思うと。
〔3505〕(うち日さつ)宮の瀬川の貌花のように、恋い慕って寝ているのだろうか。昨夜も今夜も。
〔3506〕新室の祝いの宴に行ったところ、(はた薄)穂に出るように思いを表したあなたが、見えないこのごろだ。
〔3507〕谷が狭いので峰まで這い上がっている玉葛のように、絶えようという心を、私は持っていないのに。
意訳
国名の分からない東歌の相聞の続きである。恋人を思って安らかに眠れないという歌、恋人も恋しく思って寝ているだろうかと思いやる歌、新室の祝いの宴で心を表した人がその後見えないという歌、玉葛のように仲を絶やす気はないという歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 末葉
- 「うらば」。枝先の葉。「うら安」を導く。
- うら安に
- 心安らかに。
- うち日さつ
- 「宮」にかかる枕詞。「うち日さす」の東国方言。
- 貌花
- 「かほばな」。昼顔の類か。
- 昨夜
- 「きそ」。昨夜。
- 新室の言壽
- 「にひむろのことほぎ」。新築の家の祝いの宴。
- はた薄
- 「穗」にかかる枕詞。
- 穗に出し
- 思いを表に出した。
- 谷狹み
- 「たにせばみ」。谷が狭いので。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・相聞・3504〜3507番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の相聞。作者未詳。国名未詳。
修辞
- 序詞
- 3504番の「春べ咲く藤の末葉の」、3505番の「宮の瀨川の貌花の」、3507番の「谷狹み峰に蔓ひたる玉葛」。
解説
3506番は、新築の家を祝う宴で男女が歌を交わした習俗を伝える。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、542頁(コマ64)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、631頁(コマ79)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日