万葉集 巻第十四 3490〜3493番
梓弓 末は依り寢む
国名未詳の東歌の相聞。将来は寄り添って寝よう、今は人目が多いのでお前を中途半端にしておくのだという歌、楊は伐ればまた生えるが人は恋に死んでしまうのにどうしろというのかという歌、池の堤に刺した楊が根づいても根づかなくてもお前と二人でという歌、遅くても早くてもお前を待とう、椎の小枝のように逢うことは違えないという歌。
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題詞東歌(相聞)
- 1梓梓あずさ弓弓ゆみ安都佐由美3490
- 2末末すえははは依依よりりり寢寢ねむむむ須惠波余里禰牟
- 3まさかまさかまさかこそこそこそ麻左可許曾
- 4人人ひと目目めををを多多おおみみみ比等目乎於保美
- 5汝汝なををを間間はしにににおけおけおけれれれ奈乎波思爾於家禮
- 6楊楊やなぎこそこそこそ楊奈疑許曾3491
- 7伐伐きれれればばば生生はえええすれすれすれ伎禮婆伴要須禮
- 8世世よののの人人ひとののの余能比等乃
- 9戀戀こいににに死死しなななむむんををを古非爾思奈武乎
- 10如何如何いかににに爲爲せよよよとととぞぞぞ伊可爾世余等曾
- 11小小お山山やま田田だののの乎夜麻田乃3492
- 12池池いけののの堤堤つつみににに伊氣能都追美爾
- 13刺刺さすすす楊楊やなぎ左須楊奈疑
- 14成成なりりりももも成成ならららずずずももも奈里毛奈良受毛
- 15汝汝なととと二人二人ふたりはははももも奈等布多里波母
- 16遲遲おそ速速はやももも於曾波夜母3493
- 17汝汝なをををこそこそこそ待待またたためめめ奈乎許曾麻多賣
- 18向向むかつつつ峰峰をののの牟可都乎能
- 19椎椎しいののの小小こ枝枝やでののの四比乃故夜提能
- 20逢逢あひひいははは違違たがははわじじじ安比波多我波自
現代語訳
〔3490〕(梓弓)将来は寄り添って寝よう。今こそは人目が多いので、お前を中途半端にしておくのだ。
〔3491〕楊は伐ってもまた生えてくるが、世の人が恋に死んでしまうのを、どうしろというのか。
〔3492〕山田の池の堤に刺した楊が根づいても根づかなくても、お前と二人でいたいものだ。
〔3493〕遅くても早くても、お前をこそ待っていよう。向かいの峰の椎の小枝が交わるように、逢うことは違えまい。
意訳
国名の分からない東歌の相聞の続きである。今は人目が多いが将来は共に寝ようという歌、楊と違って人は恋に死ねば戻らないと嘆く歌、恋の成否にかかわらず二人でいたいという歌、遅くても早くてもお前を待とうという歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 末
- 「すゑ」。将来。弓の末を掛ける。
- まさか
- 今、現在。
- 間
- 「はし」。中途半端。
- 伐れば生えすれ
- 伐っても生えてくる。
- 如何に爲よとぞ
- どうしろというのか。
- 成りも成らずも
- 根づいても根づかなくても、恋が成っても成らなくても。
- 遲速も
- 「おそはやも」。遅くても早くても。
- 小枝
- 「こやで」。小枝。東国方言。
- 違はじ
- 「たがはじ」。違えまい。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・相聞・3490〜3493番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の相聞。作者未詳。国名未詳。3490番は柿本人麻呂歌集の歌。
修辞
- 対比
- 3491番は伐っても生える楊と、死ねば戻らない人とを対比する。
- 序詞
- 3492番の「小山田の池の堤に刺す楊」が「成りも成らずも」を導く。
解説
3492番の「刺す楊」は、柳の枝を挿し木にする習俗によるもので、恋の成否を占う意味もあったとされる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、541頁(コマ63)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、629頁(コマ78)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日