万葉集 巻第十四 3482〜3485番
から衣 襴のうち交へ
国名未詳の東歌の相聞。唐衣の裾が合わないように逢わないが、心変わりはしないという歌、昼は解けない紐が夜は解けやすいのは夫に寄り添うしるしかという歌、麻をそんなに績まなくても明日もあるのだからさあ寝床へという歌、剣のように身に添う妻を抱き取りかねて泣いてしまった、子どもでもないのにという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞東歌(相聞)
- 1からからから衣衣ころも可良許呂毛3482
- 2襴襴すそのののうちうちうち交交かへへへ須蘇乃宇知可倍
- 3あはあはあわねねねどもどもども安波禰杼毛
- 4異異けしきしきしき心心こころををを家思吉己許呂乎
- 5我我あががが思思もはははなくなくなくににに安我毛波奈久爾
- 6晝晝ひる解解とけけけばばば比流等家波3483
- 7解解とけけけなへなへなえ紐紐ひもののの等家奈敝比毛乃
- 8我我わががが夫夫せなににに和賀西奈爾
- 9相相あい依依よるるるとととかもかもかも阿比與流等可毛
- 10夜夜よる解解とけけけやすけやすけやすけ欲流等家也須家
- 11麻麻あさ苧苧おらららををを安左乎良乎3484
- 12麻笥麻笥おけににに多多ふすさににに遠家爾布須左爾
- 13績績うまままずずずともともとも宇麻受登毛
- 14明日明日あす來來きせせせざざざめめめややや安須伎西佐米也
- 15いざいざいざせせせ小小お床床どこににに伊射西乎騰許爾
- 16劍劍つるぎ刀刀たち都流伎多知3485
- 17身身みににに副副そふふう妹妹いもををを身爾素布伊母乎
- 18とりとりとりみみみかねかねかね等里見我禰
- 19哭哭ねをををぞぞぞ泣泣なきききつるつるつる哭乎曾奈伎都流
- 20手兒手兒てこにににあらあらあらなくなくなくににに手兒爾安良奈久爾
現代語訳
〔3482〕唐衣の裾が打ち合わないように、逢ってはいないけれど、変わった心を私は持っていないのに。
〔3483〕昼に解くと解けない紐が、わが夫に寄り添おうとしてか、夜は解けやすいことだ。
〔3484〕麻の糸を麻笥にいっぱいに績まなくても、明日という日が来ないことがあろうか。さあ、寝床へおいで。
〔3485〕(劍刀)身に添う妻を抱き取りかねて、声をあげて泣いてしまった。幼い子どもでもないのに。
意訳
国名の分からない東歌の相聞の続きである。逢わなくても心変わりはしないという歌、夜になると紐が解けやすくなるのを夫との逢瀬のしるしと見る歌、夜なべの麻績みをやめて寝床へ来いと妻を誘う歌、身に添う妻を抱きかねて泣いてしまったという歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 襴
- 「すそ」。衣の裾。
- うち交へ
- 打ち合わせて。
- 異しき心
- 「けしきこころ」。変わった心、浮気心。
- 解けなへ
- 解けない。「なへ」は東国方言の打消。
- 夜解けやすけ
- 夜は解けやすい。「やすけ」は東国方言。
- 麻苧
- 「あさを」。麻の繊維。
- 麻笥
- 「をけ」。績んだ麻を入れる器。
- 多に
- 「ふすさに」。たくさん。
- 績まず
- 「うまず」。糸に績まないで。
- 來せざめや
- 来ないことがあろうか。
- 劍刀
- 「つるぎたち」。「身に副ふ」にかかる枕詞。
- 手兒
- 「てこ」。幼い子。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・相聞・3482〜3485番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の相聞。作者未詳。国名未詳。
修辞
- 序詞
- 3482番の「から衣襴のうち交へ」が「あはねども」を導く。
- 枕詞
- 3485番の「劍刀」。
解説
3484番は、夜なべに麻の糸を績む妻を寝床へ誘う夫の歌で、東国の農家の生活がうかがえる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、540頁(コマ63)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、628頁(コマ78)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日