万葉集 巻第十四 3478〜3481番
遠しとふ 故奈の白嶺に
国名未詳の東歌の相聞。遠いという故奈の白嶺に、逢う時も逢わない時も、お前のほうに寄せられるという歌、安可見山の草を刈り払って逢いながら逆らう妹がいとしいという歌、大君の命令を畏んでいとしい妻の手枕を離れて夜立ちして来たという歌、あわただしく家の妻に何も言わずに来て苦しいという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞東歌(相聞)
- 1遠遠とおしししとととふふふ等保斯等布3478
- 2故奈故奈こなののの白白しら嶺嶺ねににに故奈乃思良禰爾
- 3逢逢あほほお時時しだももも阿抱思太毛
- 4逢逢あははわのののへへへ時時しだももも安波乃敝思太毛
- 5汝汝なにににこそこそこそよさよさよされれれ奈爾己曾與佐禮
- 6安可見安可見あかみ山山やま安可見夜麻3479
- 7草草くさ根根ね刈刈かりりり除除そけけけ久左禰可利曾氣
- 8逢逢あははわすすすがへがへがへ安波須賀倍
- 9爭爭あらそふふう妹妹いもししし安良蘇布伊毛之
- 10あやあやあやににに愛愛かなしししももも安夜爾可奈之毛
- 11大君大君おおきみののの於保伎美乃3480
- 12命命みことかしこみかしこみかしこみ美己等可思古美
- 13愛愛かなししし妹妹いもががが可奈之伊毛我
- 14手手た枕枕まくら離離はなれれれ多麻久良波奈禮
- 15よよよだちだちだち來來きぬぬぬかもかもかも欲太知伎努可母
- 16ありありあり衣衣きぬののの安利伎奴乃3481
- 17さゑさゑさゑさゑさえさえ鎭鎭しずみみみ佐惠佐惠之豆美
- 18家家いえののの妹妹いもににに伊敝能伊母爾
- 19物物もの言言いははわずずず來來きにににててて毛乃伊波受伎氏
- 20思思おもひひい苦苦ぐるしししももも於毛比具流之母
現代語訳
〔3478〕遠いという故奈の白嶺に寄るように、逢う時も逢わない時も、お前のほうに引き寄せられることだ。
〔3479〕安可見山の草の根を刈り払って、共寝をしながらも逆らういとしい人が、むやみにいとしい。
〔3480〕大君の仰せを恐れ謹んで、いとしい妻の手枕を離れて、夜のうちに旅立って来てしまったことだ。
〔3481〕(あり衣の)ざわざわとあわただしく、家の妻に何も言わずに来てしまって、思いが苦しいことだ。
意訳
国名の分からない東歌の相聞の続きである。逢う時も逢わない時もお前に心が寄るという歌、共寝をしながらも逆らう恋人がいとしいという歌、大君の命令で妻の手枕を離れて夜のうちに旅立った防人の歌、慌ただしく妻に何も言わずに出て来た苦しさを詠む歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 故奈の白嶺
- 「こなのしらね」。所在未詳の高山。
- 逢ほ時
- 「あほしだ」。逢う時。東国方言。
- 逢はのへ時
- 「あはのへしだ」。逢わない時。東国方言。
- よされ
- 寄せられる。
- 逢はすがへ
- 逢いながらも。
- よだち
- 夜立ち。夜のうちに出発すること。
- あり衣の
- 「さゑさゑ」にかかる枕詞か。
- さゑさゑ鎭み
- ざわざわとさわいで、の意か。
- 思ひ苦しも
- 「おもひぐるしも」。思いが苦しい。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・相聞・3478〜3481番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の相聞。作者未詳。国名未詳。3480・3481番は防人の歌か。
修辞
- 対句
- 3478番の「逢ほ時も」と「逢はのへ時も」。
解説
3481番は巻第四の柿本人麻呂の歌(503番)とほぼ同じ歌で、東国に伝わった異伝である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、540頁(コマ63)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、628頁(コマ78)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日