万葉集 巻第十四 3470〜3473番
相見ては 千年や去ぬる
国名未詳の東歌の相聞。逢ってから千年もたったのか、いやそう思うのは君を待ちかねるからかという歌、しばらくは寝ていられるのに夢にむやみに見えて泣かせるという歌、人妻だからといって何を言うのか、それなら隣の衣を借りて着ないのかという歌、佐野山の斧の音のように遠いのに恋人が面影に見えたという歌。
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題詞東歌(相聞)
- 1相相あい見見みてててははは安比見氏波3470
- 2千千ち年年とせややや去去いぬるぬるぬる千等世夜伊奴流
- 3否否いなをををかもかもかも伊奈乎加母
- 4我我あれややや然然しか思思もふふう安禮也思加毛布
- 5君君きみ待待まちちちがてがてがてににに伎美末知我氏爾
- 6暫暫しまらくくくははは思麻良久波3471
- 7寢寢ねつつつつつつもももあらあらあらむむんををを禰都追母安良牟乎
- 8夢夢いめのみのみのみににに伊米能未爾
- 9もとなもとなもとな見見みえええつつつつつつ母登奈見要都追
- 10我我あををを哭哭ねししし泣泣なくるくるくる安乎禰思奈久流
- 11他他ひと妻妻づまととと比登豆麻等3472
- 12何何あぜかかか其其そををを云云いははわむむん安是可曾乎伊波牟
- 13然然しからららばばばかかか志可良婆加
- 14隣隣となりののの衣衣きぬををを刀奈里乃伎奴乎
- 15借借かりりりててて著著きなななはははももも可里氏伎奈波毛
- 16佐野佐野さの山山やまににに左努夜麻爾3473
- 17打打うつつつややや斧斧おの音音とののの宇都也乎能登乃
- 18遠遠とおかかかどもどもども等抱可騰母
- 19寢寢ねもももとととかかか子子ころろろががが禰毛等可兒呂賀
- 20面面おもににに見見みえええつるつるつる於由爾美要都留
現代語訳
〔3470〕逢ってからもう千年も過ぎたのだろうか。いや、そうではないのか。私がそう思うのだろうか、あなたを待ちかねて。
〔3471〕しばらくは寝ていられるだろうに、夢にばかりむやみに見えて、私を声をあげて泣かせることよ。
〔3472〕人妻だからといって、どうしてそれを言うのか。それならば、隣の家の衣を借りて着ないとでもいうのか。
〔3473〕佐野山で打つ斧の音のように遠いけれど、共寝をしようというのか、あの子が面影に見えたことだ。
意訳
国名の分からない東歌の相聞の続きである。待ちかねる思いを千年にたとえる歌、夢に現れては泣かせる恋人を詠む歌、人妻との恋をとがめられて隣の衣を借りて着ないかと開き直る歌、遠く離れた恋人の面影が見えたという歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 千年や去ぬる
- 千年も過ぎたのか。
- 否をかも
- いや、そうではないのか。
- 待ちがてに
- 待ちかねて。
- 暫くは
- 「しまらくは」。しばらくは。
- もとな
- むやみに。
- 他妻
- 「ひとづま」。人の妻。
- 何か
- 「あぜか」。どうして。
- 著なはも
- 着ないのか。「なは」は東国方言の打消。
- 斧音
- 「をのと」。斧の音。
- 遠かども
- 「とほかども」。遠いけれども。
- 寢もとか
- 寝ようというのか。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・相聞・3470〜3473番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の相聞。作者未詳。国名未詳。3470番は柿本人麻呂歌集の歌。
修辞
- 譬喩
- 3472番は人妻を「隣の衣」にたとえる。
- 序詞
- 3473番の「佐野山に打つや斧音の」が「遠か」を導く。
解説
3472番は、人妻との恋をとがめる世間に開き直る、東歌らしい大胆な歌である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、540頁(コマ63)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、626頁(コマ77)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日