万葉集 巻第十四 3465〜3469番
高麗錦 紐解き放けて
国名未詳の東歌の相聞。高麗錦の紐を解いて寝た上にどうしろというのか、むやみにいとしいという歌、いとしさに寝れば噂に出るし寝なければ心にかかるという歌、奥山の板戸を音を立てて開けたら入って来て寝てほしいという歌、山鳥の尾の鏡のように唱えるべきだからお前に寄りついたのだろうという歌、夕占では今夜と出たのに夫はどうして来ないのかという歌。
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題詞東歌(相聞)
- 1高麗錦高麗錦こまにしき巨麻爾思吉3465
- 2紐紐ひも解解とききき放放さけけけててて比毛登伎佐氣氏
- 3寢寢ぬるるるががが上上へににに奴流我倍爾
- 4何何あどどど爲爲せろろろとととかもかもかも安杼世呂登可母
- 5あやあやあやににに愛愛かなしきしきしき安夜爾可奈之伎
- 6ままま愛愛がなしししみみみ麻可奈思美3466
- 7寐寐ぬれれればばば言言ことににに出出ず奴禮婆許登爾豆
- 8さささ寢寢ねなへなへなえばばば佐禰奈敝波
- 9心心こころののの緒緒をろろろににに己許呂乃緒呂爾
- 10乘乘のりりりてててかなしかなしかなしももも能里氏可奈思母
- 11奥奥おく山山やまののの於久夜麻能3467
- 12眞眞ま木木きののの板板いた戸戸どををを眞木乃伊多度乎
- 13とどとどとどとととしししててて等杼登之氏
- 14我我わががが開開ひらかかかむむんににに和我比良可武爾
- 15入入いりりり來來きててて寢寢なさささねねね伊利伎氏奈左禰
- 16山山やま鳥鳥どりののの夜麻杼里乃3468
- 17尾尾おろろろののの秀秀はつ尾尾おににに乎呂能波都乎爾
- 18鏡鏡かがみ懸懸かけけけ可賀美可家
- 19唱唱となふふうべみべみべみこそこそこそ刀奈布倍美許曾
- 20汝汝なににによそりよそりよそりけめけめけめ奈爾與曾利雞米
- 21夕夕ゆう占占けにににももも由布氣爾毛3469
- 22今夜今夜こよいととと告告のらららろろろ許余比登乃良路
- 23我我わががが夫夫せなははは和賀西奈波
- 24何何あぜぞぞぞももも今夜今夜こよい阿是曾母許與比
- 25依依よしろしろしろ來來きまさまさまさぬぬぬ與斯呂伎麻左奴
現代語訳
〔3465〕高麗錦の紐を解き放って共寝をした上に、どうしろというのか。むやみにいとしいことだ。
〔3466〕いとしさに共寝をすれば噂に立つし、共寝をしなければ心の緒に乗りかかって、せつないことだ。
〔3467〕奥山の真木の板戸を、ことことと音を立てて私が開けたら、入って来てお休みなさい。
〔3468〕山鳥の尾の長い尾に鏡を懸けて唱えるように、言いはやすべきだからこそ、お前に寄りついたのだろう。
〔3469〕夕占にも今夜来ると告げたのに、わが夫は、どうして今夜寄って来てくださらないのか。
意訳
国名の分からない東歌の相聞の続きである。共寝をしてもなおいとしいという歌、寝れば噂に、寝なければ心にかかるという悩み、板戸を開けたら入ってきてほしいという誘い、山鳥の尾の鏡にたとえた歌、夕占の告げに反して来ない夫を待つ歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 高麗錦
- 「こまにしき」。高麗から伝わった錦。「紐」にかかる枕詞。
- 何ど爲ろ
- 「あどせろ」。どうしろと。東国方言。
- 言に出
- 「ことにづ」。噂に出る。
- さ寢なへば
- 共寝をしなければ。「なへ」は東国方言の打消。
- 心の緒ろ
- 「こころのをろ」。心の緒。
- とど
- ことこと。戸の音。
- 寢さね
- 「なさね」。お休みなさい。
- 秀つ尾
- 「はつを」。長く秀でた尾。
- 唱ふべみ
- 「となふべみ」。唱えるべきなので。
- 夕占
- 「ゆふけ」。夕方の辻占。
- 告らろ
- 「のらろ」。告げた。東国方言。
- 依しろ
- 「よしろ」。寄って。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・相聞・3465〜3469番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の相聞。作者未詳。国名未詳。
修辞
- 対句
- 3466番の「寐れば言に出」と「さ寢なへば心の緒ろに乘りて」。
解説
3469番の夕占は、夕方に辻に立って道行く人の言葉で吉凶を占うもので、3318番などにも見える。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、539頁(コマ62)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、626頁(コマ77)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日