万葉集 巻第十四 3452〜3454番
おもしろき 野をばな燒きそ
国名未詳の東歌の雑歌。野を焼かないでくれ、古草に新草がまじって生えるようにという歌、遠く離れた妻が着せてくれた衣の袂がほつれてきたという歌、庭に植えた麻の布で作った小衾よ、今夜だけでも夫を呼び寄せてくれという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞東歌(雑歌)
- 1おもしろきおもしろきおもしろき於毛思路伎3452
- 2野野のをををばばばななな燒燒やきききそそそ野乎婆奈夜吉曾
- 3古古ふる草草くさににに布流久左爾
- 4新新にい草草くさまじりまじりまじり仁比久佐麻自利
- 5生生おひひいははは生生おふるふるうるがががににに於非波於布流我爾
- 6風風かぜののの音音とののの可是乃等能3453
- 7遠遠とおききき我我わぎ妹妹もががが登抱吉和伎母賀
- 8著著きせせせししし衣衣きぬ吉西斯伎奴
- 9袂袂たもとののの行行くだり多母登乃久太利
- 10紕紕まよひひい來來きにににけりけりけり麻欲比伎爾家利
- 11庭庭にわににに殖殖たつつつ爾波爾多都3454
- 12麻麻あさ布布で小小こ衾衾ぶすま安佐提古夫須麻
- 13今夜今夜こよいだにだにだに許余比太爾
- 14夫夫つまよしよしよし來來こせせせねねね都麻余之許西禰
- 15麻麻あさ布布で小小こ衾衾ぶすま安佐提古夫須麻
現代語訳
〔3452〕趣のある野を焼かないでおくれ。古い草に新しい草がまじって、生え育つように。
〔3453〕(風の音の)遠く離れたいとしい妻が着せてくれた衣の、袂の縫い目がほつれてきたことだ。
〔3454〕庭に植えた麻で作った布の小衾よ、今夜だけでも夫を呼び寄せておくれ、麻布の小衾よ。
意訳
国名の分からない東歌の雑歌の終わりの三首である。古草と新草がまじって育つように野焼きをしないでくれという歌、妻の着せてくれた衣の袂がほつれてきたと旅の長さを嘆く歌、麻布の衾に今夜だけでも夫を呼び寄せてくれと願う妻の歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- おもしろき
- 趣のある。
- 生ひは生ふるがに
- 生え育つように。
- 風の音の
- 「遠き」にかかる枕詞。
- 行
- 「くだり」。縫い目の筋。
- 紕ひ
- 「まよひ」。布の織り目がほつれて。
- 殖つ
- 「たつ」。植える。
- 麻布小衾
- 「あさでこぶすま」。麻布で作った夜具。
- 夫よし來せね
- 「つまよしこせね」。夫を寄せて来させておくれ。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・雑歌・3452〜3454番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の雑歌。作者未詳。国名未詳。
修辞
- 反復
- 3454番は「麻布小衾」を初めと終わりにくり返す。
- 呼びかけ
- 3454番は衾に呼びかける。
解説
3452番は、春の野焼きの習俗を背景に、古草と新草のまじる野の命をいとおしむ歌である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、538頁(コマ62)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、625頁(コマ76)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日