万葉集 巻第十四 3447〜3451番
草蔭の 安努な行かむと
国名未詳の東歌の雑歌。安努へ行こうと切り開いた道を誰も通らず荒草が茂ったという歌、花の散る乎那の峰が洲につくまで君の命が続いてほしいという歌、眞久良我から海人が漕いで来るのが見える、波よ立つなという歌、乎久佐壮子と乎具佐助丁を並べてみると乎具佐が勝っているという歌、左奈都良の岡に粟を蒔き、いとしい人の駒が食べても追いはしないという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞東歌(雑歌)
- 1草草くさ蔭蔭かげののの久佐可氣乃3447
- 2安努安努あぬななな行行ゆかかかむむんととと安努奈由可武等
- 3墾墾はりりりししし道道みち波里之美知
- 4阿努阿努あぬははは行行ゆかかかずずずててて阿努波由加受氏
- 5荒荒あら草草くさ立立だちちちぬぬぬ阿良久佐太知奴
- 6花花はな散散ちらららふふふ波奈知良布3448
- 7こここののの向向むかつつつ峰峰をののの己能牟可都乎乃
- 8乎那乎那おなののの峰峰をののの乎那能乎能
- 9洲洲ひじにににつくつくつくまでまでまで比自爾都久麻提
- 10君君きみががが齡齡よもももがもがもがも伎美我與母賀母
- 11しろたへしろたへしろたえののの思路多倍乃3449
- 12衣衣ころもののの袖袖そでををを許呂母能素低乎
- 13眞久良我眞久良我まくらがよよよ麻久良我欲
- 14海人海人あま榜榜こぎぎぎ來來く見見みゆゆゆ安麻許伎久見由
- 15浪浪なみ立立たつつつなななゆめゆめゆめ奈美多都奈由米
- 16乎久佐乎久佐おくさ壯子壯子をととと乎久佐乎等3450
- 17乎具佐乎具佐おぐさ助丁助丁すけおととと乎具佐受家乎等
- 18潮潮しお舟舟ぶねののの斯抱布禰乃
- 19竝竝なべべべててて見見みれれればばば那良敝氏美禮婆
- 20乎具佐乎具佐おぐさ勝勝かちちちめりめりめり乎具佐可知馬利
- 21左奈都良左奈都良さなつらののの左奈都良能3451
- 22岡岡おかににに粟粟あわ蒔蒔まききき乎可爾安波麻伎
- 23かなしきかなしきかなしきががが可奈之伎我
- 24駒駒こまはははたぐたぐたぐともともとも古麻波多具等毛
- 25吾吾わはははそそそととともはじもはじもわじ和波素登毛波自
現代語訳
〔3447〕(草蔭の)安努へ行こうと切り開いた道なのに、安努へは行かずに、荒草が生い茂ってしまった。
〔3448〕花の散るこの向かいの峰の、乎那の峰が、洲に沈んでしまうまで、あなたの命が続いてほしい。
〔3449〕(しろたへの衣の袖を)眞久良我から、海人が漕いで来るのが見える。波よ、決して立つな。
〔3450〕乎久佐の男と乎具佐の助丁とを、潮舟を並べるように並べて見ると、乎具佐の方が勝っているようだ。
〔3451〕左奈都良の岡に粟を蒔いて、いとしい人の駒がそれを食べても、私は追い払ったりはしない。
意訳
国名の分からない東歌の雑歌の続きである。切り開いた道が使われずに荒れた歌、峰が洲に沈むまでの長寿を祈る歌、漕ぎ寄せる海人の舟のために波よ立つなと願う歌、二人の男を比べて一方に軍配を上げる歌、恋人の馬が粟を食べても追い払わないという歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 草蔭の
- 「安努」にかかる枕詞。
- 安努
- 「あぬ」。地名。所在未詳。
- 墾りし道
- 切り開いた道。
- 乎那の峰
- 「をなのを」。地名。所在未詳。
- 洲
- 「ひじ」。洲、泥地。
- 眞久良我
- 「まくらが」。下総国の地名か。「しろたへの衣の袖を」は「まくら」にかかる序。
- 助丁
- 「すけを」。防人の副長、または壮丁。
- 勝ちめり
- 勝っているようだ。
- 左奈都良
- 「さなつら」。地名。所在未詳。
- たぐ
- 食べる、の意か。
- そともはじ
- 追い払いはすまい。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・雑歌・3447〜3451番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の雑歌。作者未詳。国名未詳。
修辞
- 反復
- 3447番の「安努」、3450番の「乎具佐」をくり返す。
- 序詞
- 3449番の「しろたへの衣の袖を」が「眞久良」を導く。
解説
3450番は、二人の若者を比べてはやし立てる、歌垣の場の戯れ歌の趣がある。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、538頁(コマ62)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、624頁(コマ76)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日