万葉集 巻第十四 3434〜3437番
上毛野 安蘇山黑葛
東歌の譬喩歌。安蘇山の黒葛のように広く延び広がってきた仲がどうして絶えようかという歌、伊香保の榛原の榛で染めるように私の衣によく合うという歌、小新田山の番をする山の木のように末枯れせず常葉であってほしいという上野の歌三首と、安達太良の真弓を引いて置いたまま弦をはずしてしまえば弦は付けられようかという陸奥の歌。
場面イラスト(準備中)
題詞東歌(譬喩歌)
- 1上毛野上毛野かみつけぬ可美都家野3434 上野國
- 2安蘇安蘇あそ山山やま黑葛黑葛つずら安蘇夜麻都豆良
- 3野野のををを廣廣ひろみみみ野乎比呂美
- 4延延はひひいにににしししものものものををを波比爾思物能乎
- 5何何あぜかかか絕絕たえええせせせむむん安是加多延世武
- 6伊香保伊香保いかほろろろののの伊可保呂乃3435 上野國
- 7傍傍そいののの榛榛はり原原はら蘇比乃波里波良
- 8我我わががが衣衣きぬににに和我吉奴爾
- 9著著つききき宜宜よらしししもももよよよ都伎與良之母與
- 10純純ひた栲栲えととと思思おもへへえばばば比多敝登於毛敝婆
- 11白白しら砥砥と掘掘ほふふう志良登保布3436 上野國
- 12小小お新田新田にいた山山やまののの乎爾比多夜麻乃
- 13守守もるるる山山やまののの毛流夜麻能
- 14末末うら枯枯がれれれ爲爲せ無無なななな宇良賀禮勢那奈
- 15常常とこ葉葉はにににもももがもがもがも登許波爾毛我母
- 16みちのくみちのくみちのくののの美知乃久能3437 陸奥國
- 17安太多良安太多良あだたら眞眞ま弓弓ゆみ安太多良末由美
- 18彈彈はじききき置置おきききててて波自伎於伎氏
- 19撥撥せらしらしらしめめめきなきなきなばばば西良思馬伎那婆
- 20弦弦つら著著はかかかめめめかもかもかも都良波可馬可毛
現代語訳
〔3434〕上野の安蘇山のつづらが、野が広いので延び広がっていくように、長く続いてきた仲なのに、どうして絶えたりしようか。
〔3435〕伊香保の山のかたわらの榛の原の榛で染めたように、私の衣によく似合うことよ。純粋な栲の布と思うので。
〔3436〕白砥を掘る小新田山の、番人が守る山のように、末枯れなどしないで、いつまでも常緑の葉であってほしい。
〔3437〕陸奥の安達太良の真弓を、弦をはずして置いたまま反らせてしまったら、もう弦をかけることができようか。
意訳
東歌の譬喩歌の続きである。広い野に延びるつづらのように続いてきた仲は絶えないという歌、榛で染めた衣がよく似合うように相手がふさわしいという歌、守られた山の木のようにいつまでも変わらずにいてほしいという歌、弦をはずした弓のように放っておけば元には戻らないという歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 黑葛
- 「つづら」。つる草。
- 延ひにしものを
- 延び広がってきたのに。
- 何か
- 「あぜか」。どうして。
- 著き宜しも
- 「つきよらしも」。よく似合うことよ。
- 純栲
- 「ひたへ」。混じりけのない栲の布。
- 白砥掘ふ
- 「しらとほふ」。白い砥石を掘る。「小新田山」にかかる枕詞か。
- 末枯れ爲無な
- 「うらがれせなな」。葉先が枯れないで。
- 常葉
- 「とこは」。常緑の葉。
- 撥らしめ
- 「せらしめ」。弓を反らせて、の意か。
- 弦著かめかも
- 「つらはかめかも」。弦をかけられようか。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・譬喩歌・3434〜3437番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の譬喩歌。作者未詳。上野・陸奥国の歌。
修辞
- 譬喩
- つづら・榛摺りの衣・山の木・弓にたとえる。
解説
3437番の安達太良の真弓は、陸奥の安達太良山の檀(まゆみ)で作った弓で、名産として知られた。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、537頁(コマ61)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、622頁(コマ75)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日