万葉集 巻第十四 3426〜3428番
會津嶺の 國をさ遠み
陸奥国の相聞歌三首。会津嶺の国が遠いので逢えなくなったら偲ぶよすがにしようと紐を結んでくれという歌、筑紫の美しい女のために陸奥のかとり娘子の結んだ紐を解くという歌、安達太良の嶺に伏す鹿猪のように通い続けよう、寝床を去らずにいてくれという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞東歌(相聞)陸奥國
- 1會津會津あいづ嶺嶺ねののの安比豆禰能3426
- 2國國くにをををさささ遠遠どおみみみ久爾乎佐杼抱美
- 3逢逢あははわなはなはなわばばば安波奈波婆
- 4偲偲しぬびびびにににせせせもももととと斯努比爾勢毛等
- 5紐紐ひも結結むすばばばさささねねね比毛牟須婆左禰
- 6筑紫筑紫つくしなるなるなる筑紫奈留3427
- 7にほふにほふにおう兒兒こゆゑゆゑゆえににに爾抱布兒由惠爾
- 8陸奥陸奥みちのくののの美知能久乃
- 9かとりかとりかとり處女處女おとめののの可刀利乎登女乃
- 10結結ゆひひいししし紐紐ひも解解とくくく由比思比毛等久
- 11安太多良安太多良あだたらののの安太多良乃3428
- 12嶺嶺ねににに伏伏ふすすす鹿猪鹿猪ししののの禰爾布須思之能
- 13在在ありりりつつつつつつももも安里都都毛
- 14吾吾あれははは到到いたらららむむん安禮波伊多良牟
- 15寢寢ね處處どななな去去さりりりそそそねねね禰度奈佐利曾禰
現代語訳
〔3426〕会津嶺の国が遠いので、逢えなくなったら偲ぶよすがにしようと、紐を結んでおくれ。
〔3427〕筑紫の照り映える美しい女のために、陸奥のかとり娘子が結んでくれた紐を解くことだ。
〔3428〕安達太良の嶺に伏す鹿や猪がいつも同じ寝床に戻るように、私はずっと通って行こう。寝床を離れないでいておくれ。
意訳
陸奥国の相聞歌である。遠い会津の国へ帰る別れに、偲ぶよすがとして紐を結んでくれと頼む歌、陸奥の娘が結んだ紐を、筑紫の美しい女のために解いてしまうという歌、鹿猪が寝床に戻るように通い続けるから寝床を離れるなという歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 會津嶺
- 「あひづね」。会津の山、磐梯山とも。
- さ遠み
- 「さどほみ」。遠いので。
- 逢はなはば
- 逢わなくなったら。「なは」は東国方言の打消。
- 偲びにせもと
- 偲ぶよすがにしようと。「せも」は「せむ」の東国方言。
- にほふ兒
- 照り映えるように美しい女。
- かとり處女
- 「かとりをとめ」。「かとり」は固く織った絹(縑)を織る娘、または地名とする説がある。
- 鹿猪
- 「しし」。鹿や猪。
- 寢處
- 「ねど」。寝床。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・相聞・3426〜3428番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の相聞。作者未詳。陸奥国の歌。3427番は筑紫へ赴く防人の歌か。
修辞
- 対比
- 3427番は「筑紫なるにほふ兒」と「陸奥のかとり處女」を対比する。
- 序詞
- 3428番の「安太多良の嶺に伏す鹿猪の」が「在りつつも」を導く。
解説
3427番は東国から筑紫へ赴いた防人が、現地の女と親しくなったことを詠むと解される。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、536頁(コマ61)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、621頁(コマ74)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日