万葉集 巻第十四 3420〜3423番
上毛野 佐野の舟橋
上野国の相聞歌。佐野の舟橋を取り放すように親は二人を引き離すが、私は離れようかという歌、伊香保嶺に雷よ鳴るな、私は平気だが恋人が怖がるからという歌、伊香保の風は吹く日も吹かない日もあるが私の恋には止む時がないという歌、伊香保の嶺に降る雪のように妹の家のあたりを通り過ぎかねるという歌。
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題詞東歌(相聞)上野國
- 1上毛野上毛野かみつけぬ可美都氣努3420
- 2佐野佐野さのののの舟舟ふな橋橋はし佐野乃布奈波之
- 3取取とりりり放放はなししし登利波奈之
- 4親親おやははは放放さくれくれくれどどど於也波左久禮騰
- 5吾吾わははは放放さかるるるがへがへがへ和波左可流賀倍
- 6伊香保伊香保いかほ嶺嶺ねににに伊香保禰爾3421
- 7雷雷かみななな鳴鳴なりりりそそそねねね可未奈那里曾禰
- 8吾吾わががが上上へにににははは和我倍爾波
- 9故故ゆえははは無無なけどけどけどももも由惠波奈家杼母
- 10兒兒こらららににに因因よりりりてててぞぞぞ兒良爾與里氏曾
- 11伊香保伊香保いかほ風風かぜ伊香保可是3422
- 12吹吹ふくくく日日ひ吹吹ふかかかぬぬぬ日日ひ布久日布加奴日
- 13ありありありととといへいへいえどどど安里登伊倍杼
- 14吾吾あががが戀戀こいのみのみのみししし安我古非能未思
- 15時時とき無無なかりかりかりけりけりけり等伎奈可里家利
- 16上毛野上毛野かみつけぬ可美都氣努3423
- 17伊香保伊香保いかほののの嶺嶺ねろろろににに伊可抱乃禰呂爾
- 18降降ふろろろ雪雪よきののの布路與伎能
- 19行行ゆききき過過すぎぎぎ難難かてぬぬぬ遊吉須宜可提奴
- 20妹妹いもががが家家いえのののあたりあたりあたり伊毛賀伊敝乃安多里
現代語訳
〔3420〕上野の佐野の舟橋を取り外すように、親は二人の仲を引き離すけれど、私は離れたりしようか。
〔3421〕伊香保の嶺に、雷よ鳴ってくれるな。私のことはどうということもないが、あの子が怖がるからなのだ。
〔3422〕伊香保の風は吹く日も吹かない日もあるというのに、私の恋だけは、止む時がないことだ。
〔3423〕上野の伊香保の嶺に降る雪のように、行き過ぎかねている。いとしい人の家のあたりを。
意訳
上野国の相聞歌の終わりの四首である。親が仲を裂こうとしても離れはしないという歌、雷を怖がる恋人を思いやる歌、伊香保の風と違って恋には止む時がないという歌、恋人の家のあたりを通り過ぎかねる歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 舟橋
- 「ふなはし」。舟を並べてつないだ橋。
- 放くれど
- 「さくれど」。引き離すけれど。
- 放るがへ
- 「さかるがへ」。離れようか、いや離れない。
- 雷
- 「かみ」。かみなり。
- 吾が上
- 「わがへ」。私の身の上。
- 降ろ雪
- 「ふろよき」。「降る雪」の東国方言。
- 行き過ぎ難ぬ
- 「ゆきすぎかてぬ」。通り過ぎることができない。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・相聞・3420〜3423番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の相聞。作者未詳。上野国の歌。
修辞
- 序詞
- 3420番の「上毛野佐野の舟橋取り放し」、3423番の「上毛野伊香保の嶺ろに降ろ雪の」。
- 対比
- 3422番は「吹く日吹かぬ日」のある風と、止む時のない恋とを対比する。
解説
3420番の佐野の舟橋は、後に謡曲『船橋』の題材ともなった。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、535頁(コマ60)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、620頁(コマ74)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日